ベトナム・ホーチミン市の定番土産…と聞いて何を想起するでしょうか。コーヒー、ナッツ、チョコレート、刺繍ポーチ、プラカゴ、そして陶器。
近年、その素朴な風合いで多くの人の心を掴んでいるのが、ベトナム南部生まれの「ソンベ焼き」。ベトナムの陶器といえば「バッチャン焼き」も有名ですが、ソンベ焼きは庶民の生活に寄り添ってきた身近な存在。
ぽってりとした厚みと、クリーム色の温かい肌触りが特徴のソンベ焼き。近年、ヴィンテージの風合いはそのままに、現代の生活に合わせてアップデートされた新たなソンベ焼きが登場しています。
本記事では、ベンタイン市場すぐそばのソンベ焼き専門店「Nắng Ceramics(ナン・セラミックス)」ならびに、店内に併設されたアップサイクル・アクセサリーブランド「ít ít Việt Nam(イットイット・ベトナム)」をご紹介します。
「Nắng Ceramics」へのアクセス

やって来ました、ホーチミン市観光の中心地・ベンタイン市場。新年が近いこともあってか、アオザイ姿での撮影風景をよく見かけます。やっぱりサイゴンの象徴だからね。

お店があるのは、市場の西門から通りを挟んで向かい側のブロック。徒歩わずか1〜2分という好立地です。


ホーチミンメトロでアクセスする際は、ベンタイン駅の3番出口から出ると良いでしょう。

入り口の難易度は少し高めですが、事前に分かっていれば大丈夫。目印は「New York Spa & Nail」という大きな看板。スパや生地屋がひしめくローカル感満載の建物の入り口を入ります。


スパの脇道の通路に入ると…。

階段が現れました。登っていきましょう。


いたるところに「Nắng Ceramics」の案内矢印。途中、明らかな生活スペースを通過しますが、案内を信じて階段を3階(日本的には4階)まで上がっていきます。
「Nắng Ceramics」の内装・雰囲気

扉を開けると、そこには外の喧騒が嘘のような、静かで温かい空間が広がっていたのだった。

店内に入って目を奪われるのが、古都ホイアンを思わせる鮮やかなマスタードイエローの壁と、足元に広がるレトロなセメントタイル。窓からは太陽光が差し込み、並べられた陶器たちを優しく照らしています。

まるで古き良き時代のサイゴンへのタイムスリップした気分。ここだけ時間の流れが止まっているかのようです。
2種類のソンベ焼きを深掘る

「Nắng Ceramics」のベトナム人店長さんと、後述する「ít ít Việt Nam」の日本人オーナーさんから色々説明をいただきました。店長さんは流暢な日本語をお話しになるので、気軽に質問することが出来て安心。

店内中央のテーブルに積み上げられているのは、かつて作られた「ヴィンテージ(オールドソンベ)」。新しくても約50年前のものとのことで、コレクターにとってはたまらない逸品の数々。

ソンベ焼きとは文化の融合。中国やフランスの影響を受けながらも、徐々にベトナム風にアレンジされていきました。例えば、フランスでは八角形・フラットな器が好まれたのに対して、ベトナムでは十角形・深い器が好まれたのだとか。

そしてこのお店のメインであるニューソンベ。裏に「Nắng Ceramics」の印があるものが目印です。

ヴィンテージの製法と風合い、絵柄のモチーフなどを忠実に再現しながらも、「電子レンジ・食洗機・オーブン対応」といった実用面は現代生活に合わせてアップデート。ソンベ焼きは可愛いけど使いにくそう…と諦めていたそこの貴方、朗報ですよ!

このニューソンベを作っているのは、建築大学出身の若い職人さんだそう。同じクラスだった友人たちも巻き込んで分業しているとのことです。

昔から人気の柄のひとつ、鶏柄。かつては時計代わりであり、貴重な食料でもあった鶏はまさに生活の相棒。

北部のテト(旧正月)の象徴である、桃の花…なのですが、南部には桃の花が無いため、想像で描かれたファンタジーな柄なのだとか。このおおらかさもまた南部らしい?

日本人に人気だというザクロ柄。華やかながらも落ち着いた色味で、和食にもよく合いそう!
アップサイクル・アクセサリー「ít ít Việt Nam」
ニューソンベを焼き上げるにあたっては、温度調整が容易なガスではなく、扱いの難しい薪釜にこだわっているそうです。薪で焼かないと、ソンベ焼き特有の素朴な色や質感が出せないからだとか。
そして薪窯へのこだわりは同時にリスクも。焼成中に全体の約10〜15%は割れてしまうそうです。

そこで生まれたのが、店内のコーナーにあるブランド「ít ít Việt Nam(公式サイト)」。

割れてしまった陶器の欠片を、日本の「金継ぎ」に着想を得てアクセサリーとして再生させています。売り上げを職人に還元することで、手書きでの絵付け文化を残していきたい、という思いがあるのだとか。

割れ方は一つひとつ違うため、形も柄もすべて一点もの。陶器ですが見た目よりも軽く、重さは気になりません。

金属アレルギーに配慮した金具を使用されています。あくまで金継ぎ「風」なので漆も使用しておらず、安心。
ちなみに、ピアスだけではなくイヤリングを揃えていることもポイント。ベトナム、ピアスを開けることのハードルが低いからか、イヤリングってあまり売ってるのを見ないのですよね。

また、アオザイを仕立てる際に出るハギレを使ったネックレスなども。陶器だけではない、ベトナムの生活で出る様々な余り物に新たな価値を与える、大変エシカルなブランドなのでした。

さらにさらに、プラカゴ素材のショルダーバッグにも注目。ベトナムのプラカゴバッグは日本人に人気ですが、使い勝手の観点から普段使いは案外難しいと聞きます。

こちらのバッグはベルトあり、留め具あり、自立もする…ということで、デザイン性はもちろんのこと実用性もバツグン。500mlペットボトルくらいなら問題なく入りそうなサイズですよ。
「Nắng Ceramics」の価格表




ベンタイン市場近くのお店ということで値段交渉に身構える人もいるかもしれませんが、こちらのお店はメニュー表通りの定価販売!安心の明朗会計です。「MEN KEM(クリーム色)」と「MEN LÃM(色付き)」で価格設定が異なります。

また、お会計の際に旅行者か在住者かどうかを確認されます。旅行者の場合、預け荷物に含めても割れないよう厳重に梱包してくれるとのことで、トランジットで多少雑に扱われても全く問題ないレベルだとか。

在住者であれば、ゴミが出ないよう簡易包装に留めてくれます。商品を渡して終わりではなく、持ち帰った後のことまで考えてくれるホスピタリティが嬉しい。
「Nắng Ceramics」の店舗情報

ソンベ焼き専門店「Nắng Ceramics」ならびに、併設の「ít ít Việt Nam」をご紹介しました。
ベンタイン市場のすぐ隣にありながら、喧騒を忘れベトナムの土と記憶に触れられる場所。博物館か社会見学にでも訪れたようで、あまりの情報量に圧倒されてしまった…。
ヴィンテージソンベを愛でるも良し、ガシガシ使えるニューソンベを選ぶも良し、ストーリーの詰まったアクセサリーを探すも良し。ホーチミン市観光の合間に、是非探検気分で階段を登ってみてはいかがでしょう。
「Nắng Ceramics」は古都ホイアンにも2店舗を展開。また「ít ít Việt Nam」のアイテムは、ホーチミン市屈指のおしゃれエリア・タオディエンにある「Xuân Thị Handmade Crafts(Googleマップ)」でも購入可能とのこと。コンセプトに共感した方はそちらも要チェック。

