ベトナムの国民食「フォー」。しかし、ホーチミン市を始めとするベトナム南部では、首都ハノイの位置する北部ほどフォーは食べられていない…というのは良く聞く話。
実際には南部でもフォーが食べられているのですが、味やスタイルは北部のそれとは異なり、また他にポピュラーな麺料理があるので影が薄くなりがち(※勿論「南部式フォーの名店」とされるお店も沢山あります)。
ホーチミン市在住者の中には、日本からの来客をアテンドした際に「ベトナムに来たんだからとりあえずフォー食べたい!」とリクエストされ、「南部は他にも麺料理いっぱいあるのにな…」とモヤモヤした人も居るのでは。
とは言え、ベトナム全土から人が集まる大都会・ホーチミン市のこと。北部から南部に移住してきた人たちも多く、「ザ・観光客向け」なレストラン以外でも、北部式のフォーを食べられるお店が存在します。
本記事では、ホーチミン市3区にある、フォーガー(鶏肉のフォー)を始めとした北部麺料理専門店「Phở Nhà Khoai」をご紹介します。
「Phở Nhà Khoai」の場所・雰囲気

ホーチミン市1区と3区を跨ぐ主要道路のひとつ、グエンティミンカイ (Nguyễn Thị Minh Khai) 通りにやって来ました。市の中心部を結ぶ重要な交通路であり、相変わらずものすごいバイクの量だ。

「Phở Nhà Khoai」があるのは、通りの3区側起点となるラウンドアバウト、コンホア交差点 (ngã sáu Cộng Hòa) の近く。

店内はローカル食堂の様相ですが、グランドオープンから間もないお店と思われ、清潔です。よく見ると壁のタイルがカワイイ!優雅な印象のパターンもさることながら、朱色・紺色・ベージュの色の組み合わせがステキ。
浅い知識で語る、北部と南部のフォーの違い

店頭に吊り下げられた鶏さんたち。前述の通り、こちらは「フォーガー(鶏肉のフォー)」をはじめとする、北部麺料理の専門店です。
私もホーチミン市に移住するまでよく分かっていなかったのですが、鶏肉のフォーって南部だと見ないんですよね。「日本のベトナム料理屋にはあったのに、こっちじゃ全然見ないなー」と思ってました。

南部のフォーに使われる肉は牛肉のみ。しかも肉団子、牛すじ、脇腹、ムネ肉、腸…など、部位がめちゃくちゃ豊富。フォー自体、1950年代に北部から移り住んで来た人たちによって持ち込まれたものですが、食の嗜好の違いにより徐々に変化していったようです。


南部のフォーのスープはこってり・甘々味の濁った見た目。トッピングとして、香草類に加え、生もしくは茹でたもやしが付いてきます。卓上に色々とソースが置かれているのも特徴ですね。これらを直接「ぶちゅーっ」とスープに投入し、味変します(小皿に出してディップソースみたいにすることもあります)。
一方、北部のフォーはと言うと…すみません、私、まだベトナム北部に行ったことがないので語れません。とりあえず、他の北部料理同様、あっさりした味わいの透明なスープが特徴。使われる肉は、牛肉と鶏肉のどちらもあります。あとは、小さな揚げパンも一緒に提供されるとのこと。

「Phở Nhà Khoai」では卓上にいくつかソースがあるので、南部のスタイルに合わせているのかな。


あとは、レモン・塩胡椒・チリソース(めっちゃ辛い)・酢漬けにんにくがあります。
「Phở Nhà Khoai」のメニュー








「Phở Nhà Khoai」のメニューを一挙貼り付けしました。クリック or タップで大きくなるよ!
麺の種類は、フォー以外にもブン(丸く細い米麺)・春雨があります。炭火豚肉つけ麺「Bún chả(ブンチャー)」や、鰻麺(ここで言う鰻はカリカリに揚げた田鰻のこと)なども扱い、幅広いラインナップ。恥ずかしながら「Bún thang」や「Bún gà măng mọc」などの麺料理は初めて知りました。
汁無しフォー&春雨スープをいただく

何はともあれ定番メニューからいただきたいところ。「Phở gà trộn đặc biệt」65,000ドン、鶏肉の汁無し混ぜフォー(全部乗せ)です。


香草類も付いてきます。これは汁ありフォーも同様。写真右の「ノコギリコリアンダー」は少し好みが分かれる味かもしれません。

「Phở gà trộn」の特徴は、別添えのスープ・トッピングのローストピーナッツ・フライドオニオン。そこに甘辛いソース(材料は魚醤・レモン・ニンニク・唐辛子・砂糖など)がかかっており、南部の人の口にも合いそうな料理。

まずは麺。食べてびっくり、柔らかいながらほんのり噛み応えがあります。大体、フォーの麺は歯を立てずとも唇だけで噛み切れるくらいに柔らかいのに。混ぜそばに適した程よい硬さの麺なので、小気味よく食べすすめられます。

しっとりやわらか、しかしながら弾力も感じられる鶏肉。皮付きですが、脂っぽさは無くくどくない。

未熟卵。鮮やかなオレンジ色の断面と、通常の卵黄とはまた違う弾力が特徴。

そしてスープ。フォーのスープには牛骨または豚骨が使用されますが、こちらのお店では豚骨から出汁を取っているそう。
そこに生姜とローストした玉ねぎが加わり、あっさりとしていながらも芳しいスモーキーさが感じられます。生姜は東北地方・バックカン省産、玉ねぎは紅河デルタ地方・ハイズオン省産のものを使用しているそうで、材料は毎日空輸されているとのこと。

麺にスープを少しかけても良いですね。食べ方は自由。

酸っぱいの大好きだから、レモンも絞っちゃう。味が「きゅっ」と締まりますよ。

別日に再訪。「Miền gà đặc biệt」60,000ドンを注文しました。鶏肉フォーの春雨版です。

揚げパンが付いてきました。こちらは有料なので、要らない場合は手を付けないよう注意!ハノイのフォー専門店も同じシステム(=食べた分だけ課金)であるようです。

透明感のある、澄んだスープが美しい(※南部の濁ったスープのフォーも好きですよ)。

ディル(ハーブの一種)を使うのも北部料理の特徴なのかな。独特の香りなので好き嫌いがあるかもしれませんが、私は爽やかさを感じてすごく好きです。

筍が入っていました。口内でシャキシャキ、コリコリと快くリズムを奏でます。

春雨麺。もっとダルダルに煮込まれているのかと思いきや、程よく歯応えが残っており、「ちゅるちゅる」と口当たりの良い食感。

やっぱりレモンは絞りたくなります。この後チリソースも入れたのですが、数滴垂らすだけでもかなりの辛さだったので要注意。
美味しかったのですが、量的には少な目です。そもそもの味付けがあっさり目&麺が春雨…ということで胃腸に負担がかかりにくい、という理由もあるかもしれませんが、少食の私でさえ食後に口寂しさを覚えました。

…ということで、近くのParis Baguette(韓国系ベーカリーチェーン)であんぱんを食べてしまった。ずっしりと腹に溜まる感じ、これだよこれ。何にせよ、今度は「Bún thang」や「Bún gà măng mọc」にもチャレンジしたいですね!