世界各地に広がる中華料理。多くの場合、それぞれの地で定着し、現地の人たちの味覚に沿うように独自の進化を遂げています。日本における「町中華」とてそうですね。
そしてそれは韓国でも同様。甘辛い黒味噌で麺を和える「チャジャン麺(짜장면)」や、真っ赤な海鮮スープが特徴の「チャンポン(짬뽕)」などが代表的な韓国スタイル中華です。
そんな韓式中華を、ホーチミン市の外国人駐在員ハブであり韓国人コミュニティの一大拠点でもあるタオディエンエリアでいただけます。
本記事では、韓国ドラマをコンセプトにした韓国スタイル中華が味わえる「기름진 멜로 Wok of Love」をご紹介します。
「Wok of Love」の場所・外観

ホーチミンメトロ1号線・アンフー駅から15分ほど歩いてやって来ました、Võ Trường Toản通り。タオディエンのメインストリートから一本路地に入った場所にあり、まさに「隠れ家」と呼ぶにふさわしいロケーション。
近隣には多くの韓国料理レストランや、ミシュランガイド掲載店が軒を連ねます。先日ご紹介した、セリといただくサムギョプサルのお店「Minari」はこの直ぐ側。

夜のしっとりとした空気の中、突如として紫と赤を基調としたネオンの光が目に飛び込んできます。幻想的で少し危険な香りもする佇まいは、まるでサイバーパンク映画のワンシーンのよう。こちらが「Wok of Love」。同じくコリアンタウンである旧7区にも店舗を展開しています。

看板には、「기름진 멜로(キルムジンメロ)」の文字。これは、高級ホテルの中華レストランを舞台にした韓国ドラマ『油っこいロマンス』の原題で、店名の「Wok of Love」もこのドラマの英題が由来。

入口で目を引くのが、カラフルな熱帯魚が泳ぐ水槽。「LOVERS」や「WELCOME TO THE PARTY!」といったポップなネオンサインと相まって、これから始まる非日常的な体験への期待感を高めてくれる…かも?
「Wok of Love」の内装・雰囲気

店内は、外の雰囲気をそのまま引き継いだ、ムーディーな空間。店内も紫色のネオンライトが基調となっており、まるで別世界に迷い込んだかのよう。

一方、ウッド調のテーブルや仕切り、壁に飾られた額縁、照明などはやけにレトロな感じで、純喫茶を思わせるようなアンティーク感。異なるカルチャーが自由にミックスされているのもまた魅力?

ふと見上げた壁には、店名を漢字で書いた「愛情炒鍋」の文字が。これは中国語で「Wok of Love」を意味し、この店のアイデンティティを静かに主張しています。

中華料理レストランと言えど、ここは韓国スタイル。キムチやたくあんといったパンチャン(無料のおかず)が提供されました。
「Wok of Love」のメニュー


メニューを開くとまず掲げられているのは、”Put love into the WOK.” というコンセプト。「高価に感じられがちな中華料理を、品質に妥協せず手頃な価格で提供したい」という想いと共に、こだわりが語られています。




韓国スタイル中華の王道である「チャンポン」や「チャジャン麺」はもちろん、台湾式の牛肉麺、麻婆豆腐やチャーハンといったご飯もの、手作り餃子まで、とにかくメニューが充実。




鍋料理や一品料理なら、見た目も楽しい「ボルケーノ麻辣鍋」や、韓国中華の定番「タンスユク(酢豚)」、「カンプンギ(鶏の唐揚げ甘辛ソース)」、そして独創的な創作料理までさまざま。

箸休めに良さそうなサラダ類と、見るからにギルティなデザートメニュー。


ドリンクメニューは、中国の蒸留酒「高粱酒(バイチュウ)」のラインナップが豊富。韓国で中華料理を食べる際は「煙台古醸」を合わせるのが定番だそうです。
その他、ソジュやマッコリ、高粱酒を使ったオリジナルハイボールまで。自家製のソフトドリンクも充実しており、お酒を飲む人も飲まない人も、みんな楽しめそう。一方、ビールは韓国料理店でありながら銘柄はサッポロであり、その営業力の強さを感じる。
実食。一口ごとにドラマが始まる…?
수제 레몬티 (自家製レモンティー) / 79,000VND

まずはドリンク。重厚感のある縦縞のグラスに注がれた美しい琥珀色、そして輪切りのドライライムがお洒落なアクセント。
一口飲むと…思ったよりもガツンと甘かった。もう少し自然な優しい甘さを想像していたのだが。これから対峙するであろう濃厚な中華料理や、麻辣の刺激的な辛さに対しては相性が良いかも。
고수무침 (パクチーの和え物) / 70,000VND

パクチスト狂喜乱舞間違いなしの、潔いパクチー(コリアンダー)サラダ。日本の居酒屋でもたまに見かけるパクチーだけのサラダ、タイ人やベトナム人に見せるとドン引かれるらしいですが…韓国にもあったか。
ごま油の香ばしさをベースにしたドレッシングは、ニンニクのパンチ、唐辛子のピリッとした辛味、そして後から追いかけてくる微かなお酢の酸味。意外にも辛さは控えめで、むしろ甘いくらい。他の濃厚な料理の味を一度リセットしてくれる優秀な箸休めとして、インパク知の評価を差し上げます(古い)。
황금 계란 볶음밥 + 짜장소스 추가 (黄金卵チャーハン+チャジャンソース) / 180,000VND

お皿の上で繰り広げられる、光と影のコントラスト。一皿で二つの味を楽しめる贅沢なチャーハンです。

「光」の部分である黄金チャーハンは一粒一粒がお米の芯までしっかりと熱が通り、黄金色の卵に美しくコーティングされています。食感はパラパラとしながらもお米の旨味を保っており、シンプルながらも鍋肌の香ばしさ「鑊気(ウォック・ヘイ)」をしっかりと感じる本格派。

「影」の部分であるチャジャンソース。艶やかで深淵な黒色の中に、じっくり煮込まれた具材が溶け込んでいまず。
見た目ほど味は濃すぎず、八丁味噌にも似た深いコクと、野菜由来の優しい甘みが特徴。特に、具材の玉ねぎがとろとろで甘いんだ。
어향가지 새우 (エビの天ぷらと揚げナスの麻辣ソース) / 310,000VND

インパクト大の大皿料理がやって来ました。

主役は、大ぶりの海老を使った天ぷら。衣はサクサクで軽やか。噛み締めると「プリッ」という小気味良い音と共に、海老の甘みが弾けます。茄子は…すみません、食べるの忘れてました。
麻辣ひき肉ソースもまた圧倒的存在感。かなりのカラシビであり、この日食べたもので一番辛かったかもしれない。

辛くて食べられないよ、という方におすすめなのがピーナッツソース。マイルドになります。
고추잡채 (ピーマンと豚肉炒め) / 350,000VND

赤、緑、黄色のパプリカ、玉ねぎの白、そして豚肉の茶色が艶やかなソースにコーティングされ、キラキラと輝く一皿。韓国風の青椒肉絲(チンジャオロース)、「コチュチャプチェ」です。
野菜はシャキシャキとした生命力あふれる食感が残っており、強火で一気に炒められていることがわかります。豚肉は柔らかく、噛むほどに旨味が滲み出る。オイスターソースの旨味をベースにした甘じょっぱい味付けは、どこか懐かしくもあり、日本人なら誰もが好きな味。

添えられている真っ白な蒸しパンは「花パン」。最初、でっけえマシュマロかと思った。
ふかふかで柔らかいパンを開き、具材を乗せて食べるのだそうです。パンのほのかな甘みが具材の味を受け止め、頬張ると口の中が幸福感で満たされますよ。
마라샹궈 (麻辣香鍋) / 490,000VND

汁無し火鍋ことマーラーシャングォ。テーブルに運ばれてくるやいなや、唐辛子の香ばしくも危険な香りと、花椒の鼻腔をくすぐる爽やかでスパイシーなアロマが辺り一面に広がります。
箸を進めるたびに、きのこ類、レンコン、ブロッコリー、ちくわ、さつまいも春雨麺、豚バラ肉などなど、次から次へと異なる食感と味が顔を出します。たのしい。

その全てを支配するのが麻辣の刺激。舌がヒリヒリとする唐辛子の「辣」の辛さ。舌全体がじーんと痺れる花椒の「麻」の感覚。辛さは4種類あり、最も弱い「Mild Spicy」を選んだのですが…いや、十分に辛いですよコレ。あと、量も結構多いです。6人前くらいはあるんじゃなかろうか。
망고빙수 (マンゴーピンス) / 130,000VND

麻辣との死闘を終えた後はデザート。雪山に夕日が差したかのような美しいビジュアルに心が癒されるう〜。マンゴー以外にストロベリーピンスもあります。
ピンスといえば、繊細でふわふわのミルク氷。スプーンを入れると抵抗なく沈み、口に含むと、儚くも優しく溶けていく。主役のマンゴーは…これは冷凍品かな。とはいえ濃厚な甘みと芳醇な香りを楽しめます。
刺激された舌と胃を、ひんやりとした優しい甘さがそっと包み込み、鎮めてくれました。良い締めくくりだった…。
お会計

お会計は、4人で200万ドンちょっと。正直、注文し過ぎました。メニューの写真から受ける印象よりもポーションが大きかったので、5〜6人くらいで行くともっと楽しめるかも!