「カフェ大国」の名に恥じぬ、あまりにもバラエティに富んだベトナムのカフェの数々。私の暮らすホーチミン市でも、まだまだ外国人には知られていない美しいカフェが多く存在します。
そんな、地元の人びとだけが知っている隠れ家カフェに出会いたい。そんな一心で、今回はホーチミン市3区の路地裏にあるカフェを探索してまいりました。まあ、結論から言うと、全く隠れていなかったのですが。
本記事では、ホーチミン市3区のカフェ「Quán Nước Len Keng(クアン・ヌオック・レンケン)」をご紹介します。
「Quán Nước Len Keng」の場所

ホーチミン市3区・ボーティサウ (Võ Thị Sáu) 通りへとやって来ました。通りのちょうど西端、バータンハイ (3 Tháng 2) 通りやカックマンタンタム (Cách Mạng Tháng 8) 通りなどとを結ぶラウンドアバウト(民生広場)の辺りです。
なお、この日は「バインミーフェス2025」の最終日だったのですが、そちらは華麗にスルー。いや、だって昨年行ったし…。

「Quán Nước Len Keng」が位置するのは、こちらの路地。

そして、こちらが「Quán Nước Len Keng」の外観。ダイナミックな岩肌の外壁、そして緑の木々たちが、明らかに周囲とは一線を画す存在感を放っており、一目見るだけで「ただのカフェじゃない」と思わせる何かがある。

あー。ねこいっちゃうねこ。突如姿を現した看板猫ちゃんが、雰囲気に飲まれそうになっていた私の心を解してくれました。…店に入るか。

敷地に足を踏み入れると、そこは森でした…。涼し気な水流の音だけが響き、先ほどまでのボーティサウ通りでの喧騒が嘘のような静けさです。
「Quán Nước Len Keng」の雰囲気
1階

それでは店内のご紹介。まずは、1階から。

緑豊かな外観と対応するように、内装はアースカラーを基調とした温かみある雰囲気。店内もまた緑の木々や花々で彩られており、主に木材で作られたインテリア家具と良く調和しています。

ちょっとした装飾であっても、フェイクグリーンではない、生の植物が至る所で使用されています。

エントランスを階段の踊り場から見下ろした写真。店員さんが甲斐甲斐しく鏡や小物類のお掃除をしています。このような努力から映えが保たれている。

店内はどこからともなくエッセンシャルオイルの良い香りが漂います。居心地の良い、極上の室内空間。

入り口もそうでしたが、大胆に緑一色にペイントされた、大きな木製のキャビネットが目を引く。

こちらのカフェの客席は、2フロア+テラス席がありますが、座席数はさほど多く無く、大型のカフェでは決してありません。このときはオープンから間もない朝8時に訪れたので混雑しておらず、好き勝手に店内を撮影して回ることができたのですが、その1時間半後には…その様子は最後にお伝えします。

満月を思わせる、大きなライトが大胆に配置され、存在感を示しています。手前に置かれたうさぎの陶器とピッタリですね。
2階

続いて、2階の様子をご紹介。


店内の意匠からは全体的に、ビンテージスタイルの趣きのほかにも、スピリチュアルな雰囲気を感じます。あちらこちらに置かれた仏像や、「曼荼羅」モチーフの絵画などの宗教的なエッセンスがそう思わせるのかな。

2階のインテリアは、なんと言っても天井に達するほどの高さの本棚が特徴的。ベトナム語の古典作品から現代詩まで、様々な種類の本を取り揃えているとのこと。
テラス席

テラス席に出てみました。経年変化による退廃的なさまが美しい姿鏡見がキャッチーですね。

ところで、ここからさらに上へと繋がる階段があります。もしや、この上階にも客席が…?

DIY感漂い、足元に多少のおぼつかなさを覚える、そんな木製の階段を上りました。体重が3桁キロ台の方は利用を控えた方が良いかもしれない。「うそ、デブはだめかよ。デブでヒゲ生えてたらだめなのかよ。」というフレーズが咄嗟に浮かびました(「ヒゲは関係ないんだよ!」)。


果たして、屋上には緑豊かな庭園が広がっていました。利用客が少ないと思われるスペースですが、綺麗にメンテナンスされています。

オリエンタルな内装の室内席に対し、こちらは取り付けられた風見鶏がどこか西洋風の趣きを醸し出しています。一見アンバランスに思ったのですが、カフェの裏には教会があり、そこから讃美歌が聞こえてきた瞬間、この空間づくりが一気に腑に落ちた感覚がしました。お店が狙った効果かどうかは分からないけど。
「Quán Nước Len Keng」のメニュー


順番が前後してしまいましたが、注文は1階のカウンターで行います。


ドリンクメニューはこちらの2枚。コーヒー・ジュース・ホットティー・アイスティーを扱います。
すべてベトナム語表記であることに加え、「Cà phê(コーヒー)」メニュー以外の名前は、「山の雨 (Mưa miệt núi)」「霧がかった朝陽 (Nắng sớm mờ sương)」「触れ合う手と手 (Tay khẽ chạm tay)」などえらく抽象的。一応、ドリンクのレシピもベトナム語で併記されているので、何とかそこから解読しようと試みます。
と、ここで私の様子がおかしいことに気付いた店員さんが、スマホで英語メニューを見せてくれました。「Lychee tea」や「Peach tea」など、合理的な表記がされていたものの、それはそれで情趣に欠けて寂しい気もする。なお、店員さんは英語を流暢にお話しになります。英語圏の外国人ゲストが意外にも多く訪れるのかもしれないな。

さらに、エッグタルトやバナナケーキなどのペイストリーも扱います。

ただしこの日、実際に店頭に出ていたのはクロワッサンだけでした。
香り高いフルーツティーをいただく

私が注文したのは「Sông mùa thu」70,000ドン。ドリンクの名前は「秋の川」の意ですが、中身はピーチオレンジティー+レモングラス+シナモン。所謂「Trà đào cam sả」ですね。価格だけを見ると高めに感じるかもしれませんが、立地の良さと店内装飾の凝りようを考えれば、妥当な値付けかと思います。
正直なところ、ドリンクは単なるショバ代と捉えており、味にはさほど期待していなかったのですが…え、美味しい!
あちこちのカフェで「Trà đào cam sả」は飲んできましたが、こちらのお店のものはシナモンが加えられており、これがなかなか初めての感覚だったのです。シナモンがもたらすスモーキーな風味が、アンティーク感漂うお店の雰囲気とよく合っている。

さて、入店から1時間半が経過した朝9時半ごろ。座席を探しに上階まで上がってきたものの、席が見つからず顔を見合わせるゲストの姿が目立つようになりました。ハイ、満席です。

Googleの口コミ評価の高さ・件数の多さ(執筆時点で平均★4.5、件数500件超)を見て、人気のカフェなのだなーと思ってはいましたが、まさかこれほどまでとは。全く隠れ家でもなんでも無かったよ!

これまで冗談めかして書いてきた「お洒落カフェは開店と同時に入店する、これギャルの鉄則」ですが、実際ベトナムの若い女子たちを見ているとあながち間違っていないと思わさせられます。
何にせよ、早起きした日は、緑溢れるヴィンテージカフェでの朝活、いかがでしょうか?