仏教の考えが多くの人々の暮らしに根付いているベトナム。寺院を訪れる参拝客の姿から、仏教がベトナムに暮らす人々の精神的支柱を担う一端であることが垣間見られるはずです。
さて、そんなベトナムには数多のユニークなお寺が存在します。その一つが、ホーチミン市・ゴーバップ (Gò Vấp) 区に位置する「フーチャウ寺院 (Phù Châu miếu)」。
こちらのフーチャウ寺院、サイゴン川の支流である「ヴァムトゥアット川 (Sông Vàm Thuật)」に浮かぶ、通称「水上寺院 (Miếu Nổi)」。もちろん陸から直接アクセスすることは出来ず、船で向かう必要があるというではないですか。
路線バスで「フーチャウ寺院」へ行こう
1区中心部から36番のバスに乗車し、トコトコと揺られて向かった先は…
ゴーバップ区・ファンヴァンチー (Phan Văn Trị) 通りのVincom Plaza前。奇しくも、以前恐竜カフェを訪れた際に下車した場所と全く同じです。
ここから10分ちょっと歩きます。複雑な道ではありませんが、道中にコンビニなどは無いため、飲み物など必要であればVincom PlazaのWinMartで買っておきましょう。一応、道中の路上にドリンクの屋台はあります。
雨季ということで、フルーツが美味しい時期です。
アンフードン橋から寺院を望む
ヴァムトゥアット川に架かる、今居るゴーバップ区と12区とを結ぶアンフードン橋 (Cầu An Phú Đông)。2020年に完成したばかりの橋であり、今まで迂回が必要であった数十キロもの距離を短縮することに寄与しました。
歩行者通路が申し訳程度過ぎる…!側を車やバイクが通過する度ガタガタ揺れるので、心許なさがすごい。
橋の中央から、フーチャウ寺院を望むことができます。おー、本当に水上にあるぞ。あと、ここはちょうどタンソンニャット空港の東に位置するので頭上をビュンビュン飛行機が通過していきます。
船着き場も見えます。あそこから乗船すれば良いのだな。
刹那の船旅。運賃は往復15,000ドン
こちらの路地に入り、船着き場に向かいます。
突如現れた分かれ道。標識が読めないからどちらに行けば良いか分からないな…。ええいままよ、と勘に基づき右折。
合っていたようです。
中々不安になるこちらの橋を渡って船着場へ。
線香やろうそく、お供え物などが売られています。
そうこうしているうちに船がやって来たので乗船。運賃は船の上で徴収され、金額は往復で15,000ドン(≒93円)です。お寺から戻るときは徴収されません。
なんか、おばちゃんに勧められるがまま線香を購入してしまった。5,000ドン(≒31円)。
それでは出航。
わー。
…
一瞬で到着。タイのクレット島で船に乗るよりも短かったな。しかもあちらの方が運賃が安いという(片道3バーツ≒13円)。
圧巻!数多の龍がうねる正門
正門は、「タム・クアン(三關)」または「タム・モン(三門)」と呼ばれる、伝統的なベトナム仏教のスタイル。一般的には3つある通路のうち真ん中のものが一番大きいのですが、こちらの正門もそれに倣っています。
正門を観て感じたのは、龍のモチーフが至る所にあるなーということ。そして、装飾のひとつひとつすべてが陶器で緻密に覆われていることに気付きぞっとしました(語弊のある表現)。洗練された、そしてあまりにも繊細な装飾です。
何はともあれ、まずはお祈りですね…。それぞれの神様のもとに線香を立てて回ります。
「フーチャウ寺院」、その歴史
この寺院の歴史を調べていたのですが、どうも複数の言い伝えがある模様。
1つ目の言い伝え。川で交易を行うために商人たちがこの島に立ち寄り一晩滞在したところ、金・木・水・火・土の五神が商品を高値で販売しているのを目にしました。その数日後、商船の一団がこの島に、地元の人々や川を船で通過する人たちを祝福し守る五行母神を祀る寺院を建てた、というもの。もはや神話の域ですね。
2つ目は、300年近く前のザーロン皇帝時代(1802-1819)、川で亡くなった女性を発見した漁師が、その遺体をこの小島に埋葬し、魂を鎮めるためこのお寺を建てた…というもの。それ以来、貧しかった漁師の生活は大幅に良くなり、多くの人がこの地を訪れるようになったとのことです。
約300年前というと、フランス領インドシナとしてフランスの支配下になる前の出来事ですね。ちなみに日本史的に見ると江戸時代後期の頃。黒船もまだ来航していなかったのだな…
激動の歴史の中、一時期この寺院が放置されたこともあったものの、1989年にとある華人が資金を投じ修復・装飾を行ったことで、ベトナム文化と中国文化が融合した今日の姿となりました。
一本一本の柱に龍の装飾がなされており、参拝客の目を引きます。
本堂の天井から下がるのは長ーい渦巻き状の線香。真下に入ると灰が落ちてくるので注意ですが、数多の巨大な線香がぶら下がる様は圧巻そのもの。
ちょうど、渦巻き線香に火をつけてお祈りしている人の姿を見ました。お寺の人に伝えて、長い棒で線香を取りつけてもらうんだな。
本堂の外を見学。
「キャノンボールノキ」と呼ばれる、ちょっと物騒な名前の植物の木。アジアの寺院ではしばしば聖木として植えられており、熟した果実は直径20㎝くらいにもなります。ちなみに果実は美味しくないらしい。
境内を覆い尽くさんとするばかりの陶器の装飾。近寄って観てもやはり美しい!
ウェットマーケットの様相漂う寺院の奥。お寺で放して徳を積むための鳥や魚が売られています。
まとめ&「フーチャウ寺院」の場所情報
ほな、帰りますかね…。船は、日中であれば10分~15分間隔くらいで来てくれます。
歩いてVincom Plaza前に戻り、行きと同様36番バスに乗車し、1区まで移動しました。
「フーチャウ寺院」は、半日あれば中心部から行って帰ってこれる距離にあります。わずか1~2分という刹那の船旅を経て辿り着く、陶器に覆われた美しい寺院をお楽しみください。
今なお、ホーチミン市内はまだまだ知らないところだらけ。最近は中々ベトナム国内の旅行にも行けていないのですが、その分こうやって日常の中に旅を見出していきたいものだ…。