「えっ…これは…」
スマホ画面に入った夥しい数の緑の線。無情にも表示される「Your device is corrupt.」のシステムメッセージ。
ベトナムで、スマホが壊れました。
ベトナムでスマホが壊れた
金曜の夜9時、ホーチミン市・ビンタイン区のカフェ「BAMOS COFFEE & TEA」で作業をしていたときのことでした。思い返せばカウンターでの注文時、スマホでのQR決済に何度も失敗し、店員と一悶着起こしてしまったときから、運の向きは悪い方向へと変わっていたのかも。
ようやっと支払いを終え座席に着いて、スマホの充電をしようと壁際の電源タップにチャージャーを差し込んでType-Cポートにケーブルを接続したとき。
「あれ、スマホが反応しない」
充電開始に表示されるはずのアニメーション、点灯するはずの通知ランプ、そのいずれも反応無し。Android標準のリセットコマンドである電源ボタンと音量上ボタンを長押し。スマホは「ブブッ」と小刻みなフィードバックを返し、そして…
まだ日本で暮らしていた2021年12月、当時勤めていた会社の冬ボーナスを費やし奮発して購入したSONY Xperia 1Ⅲ。購入して一年半が経過した昨年の夏に指紋認証センサーが反応しなくなったものの、製品コンセプトを気に入っていた私はまだまだ使い倒すつもりでした。
そうして、購入から2年と3か月後。
…スマホ、壊れちゃった?
外出先ではあったものの、幸運だったのが作業のためにラップトップを持ち歩いていたことでした。「Xperia 起動しない」と検索エンジンに打ち込み、漂着した情報は「『Xperia Companion』を使って修復を行う」というもの。
Xperia Companionをインストールして端末をラップトップに接続し、工場出荷時の状態に戻そうとしました…が。
状況、変わらず。
…どうやら、認めたくなかった自分を受け容れるしかないようです。
結論:基盤、死亡。享年2歳と4ヵ月、Xperiaくんがお亡くなりになりました。
スマホが使えないとどうなるの?
スマホが故障したことによりベトナム生活において何が起こるのか。すぐさま思索しました。
移動の足が無い
私には2本の足があり、移動の自由がある…とは言ったものの、日本の大都市ほど公共交通機関が便利ではないこの地で、自身のバイクも持たない私にとっての専らの移動手段はGrabなどのライドシェアリングサービス。スマホが無ければ配車もできません。出来るとしたら、流しのタクシーやセオム(バイタク)を拾うことだけか。
目的地までの移動手段が分からない
アプリで配車ができないとなると次に移動手段の候補となるのは路線バスですが、Googleマップやバスアプリ(Go!Bus)が使えなければ乗るべき路線や乗換先の情報を手元で調べることもできません。そして多くの通りが複雑に入り組むホーチミン市で道に迷ったとき、現在地を知ることすらままなりません。
コミュニケーションが限られる
若者を中心に英語話者の多いホーチミン市ですが、いつでも・どこでも英語でのコミュニケーションが可能とは限りません。ベトナム語レベルが2歳児未満の私にとって、強い味方がGoogle翻訳。いざというときに意思表示をするための保険が使えないのは痛手だし、常に不安に苛まれることとなります。
バーコード決済ができない
財布にはクレジットカードしか入れず、キャッシュレスに生きたい。しかし、ホーチミン市ほどの都会においてもカード決済ができない場面がまだまだ多いこともまた事実。そんなときに有用なのがMoMoやZalo Pay、各銀行アプリでのバーコード決済(モバイル決済)。個人商店などの小規模小売店でも幅広く利用可能であり、ベトナムの好きなところの一つでもあります。もはや現金生活には戻れない…
最重要:明朝、ブンタウ行きのバスに乗ることができない
ここまで触れていなかったのですが、この週末、ホーチミン市から車で2時間のリゾート地・ブンタウへ1泊2日の旅行をする予定でした。
予約したブンタウ行きリムジンバスの時間は朝8時半。出発地である1区のバスオフィスには20分~15分前に到着しておきたい。なお、この旅行をキャンセルはしないものとする— ということで、前述の通り、スマホが無ければ何もできない私が導き出したプランは以下の通りです。
不可能です。詰みです。なるべくなら長い時間現地に滞在したいから早朝出発しよう、という思いが仇となりました。
一抹の望み、中古スマホを求めて
カフェを出て、歩を進めた先。普段は意識していなかったけど、ホーチミンではあちこちに中古のスマホショップがあったはず。代替機を買えば今の状況が何とかなる…
このとき夜10時過ぎ。夜が早いベトナムで、この時間までオープンしているスマホショップはあるのだろうか…?
ありました。
店に掲げられた各スマホメーカーのロゴ。間違いない、ここはスマホショップだ!いやっほう。
物欲しげな顔でショーケースを見つめていたのでしょう。カウンターの中にいた店員にベトナム語で声を掛けられました。英語でコミュニケーションを取りたいのですが、どうも英語は解さない様子。
しかし、スマホが使えない今翻訳アプリに頼ることはできないし、ベトナム語で可能なことといえば「○○が欲しい」という最低限の意思表示のみ。
私の焦燥しきったであろう顔を見て何かを察してくれたのか、店員さんは私物のiPhoneでGoogle翻訳アプリを開き、差し出してくれました。表示されていたメッセージは、「What do you need?」。
iPhoneを借り受け、自身が置かれた状況をぶちまける。
しばし逡巡し、何かを打ち込む店員さん。次の瞬間、見せられたものは—
あ、終わった。
泣きそうになりながら路上を彷徨い、1分後。
ありました。(二度目)
カウンターの中にいる若い男性スタッフと目が合うと、笑顔を向けられました。どうやらまだ営業中である模様。
こちらも英語は通じず、Google翻訳を経由して告げられたのはやはり「What do you need?」。事情を伝えると、店頭の中古スマホから「これはどう?」「これはRAM多くていいよ!」とピックアップしてくれるなど、親身になって相談に乗ってくれました。
最終的に私が選択したのは、中古のVIVO Y35。2022年発売、Snapdragon 680を備えるローエンド~ミドルクラスの端末です。金額は290万ドン(≒17,600円)。
ではいざ支払い…となったのですが、十分な現金の持ち合わせがないため、カードで支払いたい。
「カード使える?」と聞くと、コード決済用のQRを出されました。どうやらカードは使えない模様。
いやいや、スマホ壊れてるから無理だよ!とオーバーなジェスチャーで伝えると、彼もまた購入したばかりのY35をオーバーなアクションで指さす。
そうか、このスマホに決済アプリをインストールして支払えばいいじゃないか、ということなんだね!ノンバーバルコミュニケーションが見事成立した瞬間です。私が欧米人だったら彼とがっちり握手をしていたと思う。
「ところで、言語をベトナム語からTiếng Anh(英語)に変えたいんだけど…」
あっ!という表情を浮かべ、端末の設定画面を開いてくれる店員さん…ですが、VIVO端末のOSは高度にカスタマイズされているのか、パッと見て設定項目が見当たらない。
自身のiPhoneでYouTubeを開き、「Android 言語 変更」のようなキーワードで動画を検索してくれた店員さんですが、それを見てもいまいち変え方が分からず。(どうでもいいけど、ググるのではなくいきなりYouTubeで動画を調べる辺りがベトナム人らしいと思う)
最終的には誰か知らないおじさんにZaloでコールして、変更方法を聞いてくれました。申し訳ナイス… とりあえず、ベトナム語で「言語」は「ngôn ngữ(ンゴン・ングー)」。覚えた。
その後、自身のGoogleアカウントでログインし、Google PlayからMoMoをインストール。SIMを差し替えていたのでMoMoへは問題なくログインでき、バーコードを読み取り決済。これでようやく完了…と思いきや、決済ができない。
よく見ると、「新しい端末でログインして24時間以内は200万ドンまでの決済しかできません」とのエラーメッセージが。なんでや!2段階認証を突破しているのだから、そんな制限を設ける必要はないと思うのだが…
結局、銀行(Vietinbank)のアプリをインストールし、そちらの送金機能を使って支払い完了。疲れた…
帰り際、サービスだよ!と店員さんが差し出してくれたものがこちら。辛抱強く付き合ってくれた挙句に、無料で充電器までくれるなんて…
とにかく人の優しさに救われました。今後何かあった際は、こちらのショップを贔屓にしたい。
ちなみに、あとで気が付いたのですが端末には店舗用のGoogleアカウント情報が残ったままでした。アカン。
旅行先で新しいスマホを買う
そうして翌日。
私は携帯電話小売の最大手・Thegioididong(テーゾイジードン)の店舗前に立っていました。
昨晩中古スマホを手に入れ、あらかたの初期設定とアプリインストールを完了したことで無事にブンタウまで辿り着きました。辿り着いたはずなのです。
とりあえずしばらくはこの端末を繋ぎで使えれば…と考えていたのですが、ブラウジング・SNS・Googleマップ・配車アプリ・コード決済の挙動のすべてがワンテンポどころかツーテンポ遅れるというもっさりっぷりであり、日常生活に支障をきたしかねないため、急遽ブンタウで新しいスマホを購入することにしたのです。
Snapdragon 8 Gen 3搭載の最新ハイエンド機・Xiaomi 14を購入(2100万ドン≒12.7万円)。旅行先でスマホを買うとかどんな旅玄人よ。
予定外の出費に心にぽっかり穴が開いたような気分になりつつも、向かいのHIGHLANDS COFFEEで開封と初期設定を完了させます。Leica監修のカメラ搭載なんて、写真好きな私にぴったりなスマホで嬉しいなー、はは…
教訓:スマホは2台持ち
今回、スマホを落としたり盗まれたりしたわけではなかったためSIMが手元に残っていたのは不幸中の幸いでしたが、何にせよスマホは2台持ちが安全だなと思いました。
ちなみに仲良しのTさんにこのことを話したところ、キャリアも複数契約しておけとのこと。たしかに、今使っているMobifoneも突然通信障害が発生して、Grabが呼べなくなったことがあったなあ…
異国でスマホが使えないことは命取り。今回の出来事は深く脳裏に刻まれました。