近年日本では、昭和の雰囲気を残したヴィンテージ感のある「レトロ喫茶」が注目を集めていますよね。その古さゆえに、とりわけ若者にとってそれが新鮮に写り、心を動かされるのでしょう。
そして、私の暮らすベトナムでもそれは同様。かつてのベトナムでの暮らしを思わせる内装のカフェが人気を博しています。
例えば、1970〜80年代の計画経済時代をコンセプトとしたカフェチェーン「コンカフェ (Công Ca Phê)」はベトナム各地で人気を誇り、NHKでも特集が組まれたほど(参考)。貧しく不便だったからこそ助け合いの人情に溢れていた時代、そんな温かみあるノスタルジーに浸ることで、慌ただしい日常のストレスを忘れられるというのです。
そして2024年11月末、ホーチミン市内に新たなレトロカフェがオープンしました。
本記事では、ホーチミン市・フーニャン区に位置する、メコンデルタでの昔の暮らしをコンセプトとしたカフェ「Ní」をご紹介します。
「Ní」の場所・外観
フーニャン区・グエンディンチン (Nguyễn Đình Chính) 通りの路地裏にやって来ました。
オフィスビルの向かい、突然趣ある木製の門が現れました。
看板のロゴ、赤字に白の縁取りに、青を添えるというハイセンスっぷりが光ります。見習いたい…。「Tiệm Ca Phê Hồi Xưa」とありますが、意味としては「昔ながらのコーヒーショップ」といったところでしょうか。
敷地に足を踏み入れると、広がるのは庭園。メコンデルタの農業をイメージしてか、花のみならずナスや唐辛子の苗床、そして稲が植えられており、それに沿って椅子やテーブルが並べられています。
色鮮やかな、オレンジ色のセンジュギクが目を引きます。
翌月にはテト(旧正月)が控えていることもあり、赤と黄の飾りで華やかに装飾されていますね。一応、その前にはクリスマスが控えていますが…まあ、こちらのカフェのコンセプトを踏まえると、クリスマスツリーなどで飾り立てるのは無粋ということなのでしょう。
「Ní」のメニュー
注文はこちらのカウンターで。昔ながらの売店のような、木造でトタン葺きの可愛らしい建物です。
「Ní」のメニューはこちら。扱うものはドリンクが中心です。コーヒー、フルーツティー、ジュース、ミルクティー、ラテなど。
軽食…というほどでもないですが、昔からのお菓子も販売しているようです。ベトナム人であれば子ども時代を思い出すに違いない。
「Trà dưa lưới(メロンティー)」59,000ドンを注文しました。ショバ代込みと考えると安いですね。多くの人々が写真撮影に興じていますが、飲み物代だけでこのロケーションを使えるのは破格です。
「Ní」の内装。郷愁溢れる空間
それでは、室内の客席を見ていきましょう。低い瓦屋根、ポーチ(庇)に、通気性の良いルーバードアが特徴的な外観。ドアを開けると…。
木製のインテリアを基調とした、レトロ空間が広がります。
ベトナムという異国の、それもメコンデルタという、普段馴染みがない地域での昔の暮らしがコンセプト…と、これだけ聞くと全く感情移入出来なさそうですが、郷愁を感じてしまう不思議。「懐かしい空気」は人類普遍の概念なのかもしれません。
応接机を思わせる大きなテーブルや、サイドテーブル、勉強机のような細いテーブル…大小様々な座席があります。
上記の写真の座席の奥には、祭壇のような棚にホー・チ・ミンさんの肖像画が飾られています。日本人からすると実家の仏壇や神棚を思わせるようなものなのかも。
木製の調度品以外にも、SANYO製のコンポ・ラジカセや、年代物のテレビなど「昔」を思わせる家電製品にも注目。テレビはメーカー不祥でしたが、どうやら「Viettronics」という地場企業が製造したもののよう。
上記のテレビよりはもう少し時代が進んだ感じのブラウン管テレビ。TCL製のようですが、TCLってそんな昔からあったのか。
インテリアについては特に時代の縛りは無いようですが、主に1970年代から2000年代のものを、メコンデルタの友人も頼りつつ収集したとのことです。新品には無い、刻み込まれた記憶が確かにそこにあります。
座席のクッションに使われている布地が可愛い。この柄の布、冒頭で触れた「コンカフェ」でも使われているような。ベトナム人からすると、この柄にノスタルジーを感じるのかもしれない。
アンティーク好きやランプ好きにはたまらない、オイルランプ。インテリアとしてお洒落であることはもちろん、炎の揺らぎによる癒しも与えてくれます。
こちらの空間は、昔のキッチンを再現したもの。「台所」と呼んだほうが適切か。
ガスストーブや電気ストーブがなかった時代、メコンデルタでは薪ストーブが主流だったとのこと。もはや、地域の郷土博物館の展示のようだ。また、キッチンには欠かせない大きな食器棚もあります。
テトの写真撮影に勤しむ人々
さて、敷地内では多くの人々(主にカップル)がアオザイを着用し、写真撮影に興じています。
ホーチミン市の主要スポットで、アオザイ姿でテトの記念撮影をすることが近年若者の間でブームなのですが、こちらのカフェはこれ以上無いくらい撮影にぴったりの場所ですね。
中には、プロのカメラマンを雇っているグループもちらほら。え、私も小遣い稼ぎに格安でカメラマンやろうかな…。
アオザイ姿の彼女を、レフ板片手に撮影しているようです。頑張れ彼氏!
仰々しいビデオカメラ持参の人がいるな…と思いきや、テレビ局(VIV)の撮影クルーでした。テレビに取り上げられるカフェということは、相当話題のスポットだってことになりますよね。
ワインレッドのアオザイを着た男性…おそらくオーナーさんから「ショートビデオを撮影したいから、それに出てこのカフェの感想を話してくれないか」と声をかけられました。いや、無理無理!ベトナム語話せないし、英語ガバガバだし。それでも「楽しんでいってね〜」と言ってもらえました。代わりにブログを書いて日本人に宣伝しておくから、それで手打ちとしてほしい。
そうそう、クローゼットには大量のアオザイが格納されていました。みんな、アオザイ持参で来ているのかと思ったのですが、貸衣装もあるとは!
まじまじと見ていたら、片付けをしていたスタッフが「アオザイを着てみないか?」と声をかけてくれました。ただ、この日履いていたのがショーツパンツだったから、アオザイとは合わせられないよなあ…。次は自前のアオザイ(去年オーダーしました)持参で来たいですな。
何にせよ、外国人である私に対しても全力でウェルカムな空気が嬉しかったです。中心部から少し離れたカフェですが、機会があれば訪れてみてください。自身のアオザイをお持ちの方は、是非持参を!