市販のイースト菌ではなく、小麦粉やライ麦粉と水を混ぜて培養する自家製の発酵種「サワー種」を用いて作られたパン「サワードウ」。
乳酸菌によるほんのりとした酸味、そして長時間発酵させることで生まれる独特の風味と食感が特徴です。
私の暮らす、ここベトナム・ホーチミン市にもサワードウブレッドの専門店があります。
本記事では、ホーチミン市・ビンタイン区のサワードウ専門店「Nhạt & Sourdough(ニャット・アンド・サワードウ)」をご紹介します。
「Nhạt & Sourdough」の場所

ビンタイン区・グエンヴァンラック (Nguyễn Văn Lạc) 通りへとやって来ました。
一見ローカル感の強いエリアですが、大型コンドミニアムである「City Garden」が位置するンゴタットトゥ (Ngô Tất To) 通りとも繋がっている他、ホーチミン市第二の日本人街・ファンビッチャン (Phạm Viết Chánh) 通りからも徒歩圏内です。

そんな下町に暮らす人びとの生活感が垣間見える、こちらのヘム(路地裏)の中に「Nhạt & Sourdough」はひっそりと店を構えています。恐れる必要はありませんので、グイグイと足を進めていきましょう。後ろからやって来るバイクには気を付けて。

こちらの角を曲がると…。

ありました。持ち帰り&デリバリー専門の小さな店構え、こちらが「Nhạt & Sourdough」です。
「Nhạt & Sourdough」の様子

店に近づくと漂う、バターや甘い匂いだけではない、サワードウ特有の芳しさ。店頭には、色とりどりのペイストリーが美しくディスプレイされています。
お店ではデリバリーも受け付けており、シッパーの皆さんが引っ切り無しに訪れていましたが、もし可能ならば実際に店まで足を運び、嗅覚・視覚で楽しむべし。

上述の通り、サワードウブレッドには発酵種である「サワー種」が必要となります。
「サワードウスターター」とも呼ばれるその天然酵母は、小麦粉やライ麦粉と水だけを使い、培養して作るシンプルなもの。「餌やり」と称される発酵プロセスの過程で、もともと小麦やライ麦の皮に付着していた野生の酵母と空気中の乳酸菌が合併し、パンを発酵させるためのパン酵母が出来上がります。

こちらのお店では、数々の試行錯誤の末、全粒粉・小麦粉・ぶどうを混ぜ合わせてスターターを生み出したとのことです。ぶどうの皮には天然のイースト菌が付着しており、加えて、ぶどうの果汁がイースト菌に栄養を与えてくれるらしい。

お店では、パン生地の発酵を開始してから実際に焼き上げるまでに3日を要するとのこと。そんな手間のかかったペイストリーたちですが、価格はいずれも1つ50,000ドン程度とお手頃。スイーツのようなものから、惣菜パンのようなしょっぱい系のアイテムもあり、どれにしようか迷ってしまう。

悩んだ末、4つのペイストリーを購入。ひとつひとつを丁寧に箱に詰めてもらえました。
4つのサワードウを実食


包んでもらったサワードウは、そのままホームパーティ兼お茶会の手土産となりました。同僚宅にて、1年以上前に仕込んだ自家製味噌の開封式&味噌鍋、そして自家製醤油(!?)の試食。内容盛り沢山でしたよ。

そんな、発酵好きのホストへの手土産としてぴったりのサワードウ。袋から出してみると、区別がつくよう、それぞれの箱にはメモ書きをしてくれていました。

いざ、開封。

そして、こうじゃ(包丁でカット)。生地にすごく弾力があり、切り分けるのが非常に大変でした。上手く切れなくて、途中でバトンタッチしましたもん。

「Strawberry Custard」。ストロベリークリーム・ストロベリージャム・フレッシュストロベリーと、いちご尽くしな全粒粉入りクロワッサン。

濃厚なクリームと甘酸っぱいジャムに、風味豊かなピスタチオの相性が抜群。まるでケーキを食べているかのような気分…にはならなかった。

なぜなら、トッピングされている白ごま&黒ごまが全てを持っていくから。口の中がごまの香ばしさでいっぱいになりますが、勿論これはこれで美味しいです。
やろうと思えば繊細な味わいのペイストリーとすることも出来ただろうに、あえて大胆にごまをあしらった理由が気になりつつも、そこが面白いと感じたりもしました。

「Dubai Pistachio」。世界中で大人気であり、ここベトナムでも韓国からブームが波及する形で流行している「ドバイチョコレート(Wikipedia)」を模したであろう一品です。

ピスタチオ・ピスタチオプリン・ピスタチオクリーム・カダイフ(中東のお菓子に使われる麺状の生地)・ダークチョコレートが使われた、四角いクロワッサンです。

とろりとしたフィリングと、ザクザクしたカダイフの食感にギャップがあって楽しいですね。
そうそう、甘いペイストリーばかり選んでしまったため、味ばかりに意識が行きがちですが、サワードウの生地自体もよーく味わってみると、特有の仄かな酸味が感じられます。食感は、外は噛み応えたっぷりである反面、中はもちもちで、癖になりそう。

「Art the Clown」…って何だこれは。どうやら、昨年のハロウィンに合わせて開発された商品らしく、「殺人ピエロ(※と、お店のSNSに書かれている)」をテーマにしたペイストリーとのこと。

竹炭を練り込んだ真っ黒の生地の中には、エスプレッソ風味のローストアーモンドペースト・ラズベリージャムが入っており、仕上げにインパクト抜群の焦がしココナッツマシュマロをトッピング。

一見奇抜な外観ですが、その味はすごく堅実。甘さの中にもエスプレッソのほろ苦さ・香り高さがあるアーモンドペーストに、酸味のあるラズベリーの組み合わせが絶妙で美味です。甘み・苦味・酸味が揃うとバランスが良いのですよね。

「Pecan Pie」。アメリカでよく食べられているピーカンパイ(ペカンパイ)。くるみによく似た「ピーカンナッツ」を使って作られます。ベトナムのナッツと言えばカシューナッツやマカダミアナッツですが、ピーカンナッツについては残念ながら栽培していない模様。

サワードウとか以前に、ピーカンパイを食べるのはこれが初めて。なんかこういうお菓子食べたことあるかも、としばし思惟…あ、そうだ、フロランタンだ。

持ち上げるとずっしりと重い。甘いフィリングとカリッと香ばしいナッツの味わいが最大の特徴です。不思議とくどさを感じさせないのは、クランベリーとクリームチーズの酸味が良いアクセントになっているからかな。
「Nhạt & Sourdough」の店舗情報
ホーチミン市・ビンタイン区のサワードウ専門店「Nhạt & Sourdough」をご紹介しました。
上述の通り、「ハム&チーズ」のような惣菜系サワードウブレッドも取り扱っているようなので、今後も色々と試してみたいところです。