ホーチミン市のグルメシーンにおいて、外国人や感度の高いローカル富裕層が集まるタオディエンエリアはまさしく新しい食の実験場。そのタオディエンにて、2026年9月、新たに誕生したレストランに行ってきましたよ。
本記事では、世界各地で複数のレストランビジネスを手掛ける国際色豊かなシェフが立ち上げた《インドシナ×イタメシ》コンセプトのキッチンバー「COUCOU」をご紹介します。
「COUCOU」の場所・外観

ということでやって来ました、ホーチミン市旧2区・タオディエン界隈。在住者なら何となく分かると思いますが、スアントゥイ(Xuân Thủy) 通りの西の方です。

そんな大通りから一本入ったグエンクー (Nguyễn Cừ) 通り。通りの奥には高層コンドミニアムの灯りが見える一方、周辺はレストランが並びつつも中心部の喧騒から離れた穏やかな空気が流れます。

そしてこちらが「COUCOU」。店構えはモルタルの質感をそのまま活かしたグレーのコンクリート壁から成り、過度な主張を排したミニマルな佇まい。足元を照らす照明に導かれるまま進むと、店内の穏やかな光とオープンキッチンの様子が視界に入ります。
「COUCOU」の内装・雰囲気

では店内へ。間口に対して奥行きが深い、長方形の空間です。


入口すぐの場所はオープンキッチンのカウンター席があり、通路沿いには2名掛けのハイテーブル席、そして奥には壁際にロングベンチシートを配したダイニングエリアが用意されています。

各テーブルの上にはLEDランプが配置。この小さなスポットライトが料理やワイングラスの輪郭と色彩をドラマチックに浮かび上がらせるのです。

今回はオープンキッチンのカウンター席に案内されました。「Mr. Nishi」ですって。身に余る扱いで恐縮だ…。思わず背筋が伸びてしまいますが、シェフのKelvin氏曰く「形式ばらずリラックスして食事を楽しんでほしい」とのことでした。
「COUCOU」のメニュー


さて、「COUCOU」が掲げるコンセプトは、地中海料理に東南アジアのスパイスやハーブを掛け合わせたコンテンポラリー・アジアン。Kelvin氏からは「インドシナ VS イタメシ」と説明されました。イタメシ、つまり日本的なイタリアン。シェフは日本滞在経験があるとのことで、日本の調味料や調理方法からもインスパイアを受けたようです。
料理においては低温調理と発酵調味料を活用。強火で焼き色をつけて油脂のパンチで押すのではなく、低温調理で柔らかなテクスチャーと水分量を保ちます。また、日本の醤油や味噌、そしてベトナムのヌックマム(魚醤)といった発酵由来のアミノ酸を幾重にも重ねることで、油を多用せずとも満足感を生み出している模様。
実食
今回はシェフのおまかせにより、料理に合わせてワインと日本酒が提供されるペアリングスタイルでいただきましたよ。
スペイン白ワインと前菜

最初に注がれたのは、スペインの辛口白ワイン「Anter Macabeo-Verdejo 2024」。フレッシュな青リンゴのような果実味とライムのような柑橘香、そしてハーブの清涼感が心地よく調和した軽やかな口当たりが特徴とのこと。

欧米の定番前菜「Deviled Eggs(デビルドエッグ)」。伝統的な花柄のバッチャン焼きに乗せて供されます。滑らかな黄身のクリームの上にはイクラが乗り、皿の底にはカレーを思わせるスパイシーなペースト。卵のコクに魚卵の塩気が重なり、白ワインの酸が後味を引き締めます。

「Passionfruit Nam Jim Oyster(パッションフルーツとナムジムの生牡蠣)」。生牡蠣にタイの魚醤タレ「ナムジム」とパッションフルーツの果汁を合わせた泡状のソースが重なっています。さらに刻んだハラペーニョと山椒、タイバジル、角切りのキュウリもトッピング。一口で啜ると、牡蠣のミルキーさの直後に酸味・甘み・辛味・そして爽やかなしびれが突き抜け、「口内で一体何が起こったの!?」ってくらいの重層的な味わい。

「Cou Cou Sourdough Bread(サワードウブレッド 出汁スモークバター添え)」。香ばしく焼き上げられた自家製サワードウブレッドに、出汁と燻製香を練り込んだという特製バターが添えられています。一口かじるとスモーキーなうま味と、トッピングに黒胡椒のワイルドな辛味が口いっぱいに広がる。サワードウ由来の酸味が白ワインの酸と自然に寄り添います。
モーゼル・リースリングと冷前菜

続いてのワインは、ドイツのモーゼル地方を代表する生産者による「DR. LOOSEN BROS 2025 Riesling」。冷涼な気候とスレート土壌が生み出す引き締まった高い酸度と、澄んだミネラル感が特徴。

「Burrata Itameshi Style(イタメシ風ブッラータ)」。深皿の中央にブッラータチーズを丸ごとどーん!と据え、周囲に柚子ポン酢とすだちの果汁、上には鰹節とエディブルフラワーがあしらわれています。そして脇には添えられているのはなんとトマトのジェラート。スプーンですべての具材を一気にすくって口へ運びます。
ミルキーなチーズのコクと鰹節のうま味、そしてすだちの酸味とジェラートの冷たさが全体をまとめ上げます。この組み合わせの妙さ、もはや私の知ってるイタメシと違う…。

「Tom Kha Kai 2.0(トムカーガイ2.0)」。タイのココナッツチキンスープ「トムカーガイ」を解体&再構築したフィンガーフード。土台にはライスクラッカー…というか煎餅が敷かれ、その上には72度の低温で24時間じっくり火入れしたという鶏肉、ハーブ、そして仕上げに削り落とされた柑橘の皮が重なっています。
大口を開けて豪快にいただくと、煎餅の香ばしさとしっとりほぐれる鶏肉の食感が交錯し、濃厚なココナッツと柑橘の苦味を伴う爽やかな香りが口内でスープの味へと再構築されます。なお、シェフからは「お店を始めて3週間経つけど、これをナイフで切らずそのまま齧り付いたのはあんたが初めて」とお褒め?の言葉をいただきました。いや、煎餅をカットする選択肢は無いじゃろ!

カクテルグラスのような器に盛り付けられた「Heirloom Tomato Salad(エアルームトマトのサラダ)」。グラスの底にはヌックマムのうま味を効かせたジュレと色鮮やかなエアルームトマトが沈み、上層にはパルミジャーノ・レッジャーノをきめ細かく泡立てたムースが重ねられています。トマトの酸味、魚醤のコク、熟成チーズのうま味が一体となり、サラダの枠組みを超えた奥深く重層的な味を作り出します。
ゲヴュルツトラミネールと和牛タルタル

お次のワインは、ドイツ・ファルツ地方の「GAUMEN Spiel GEWÜRZTRAMINER 2025」。ライチや白桃、オリエンタルなスパイスの香りを放つゲヴュルツトラミネール品種で、ラベルにリープリッヒ(=「やや甘口」)とあり、果実の甘みを感じる中甘口の仕立てです。

このワインに合わせるのが「Smoked Wagyu-steak Tartare(燻製和牛ステーキのタルタル)」。フランス料理の定番・タルタルステーキを、ベトナムの生春巻きあるいは日本の手巻き寿司の手法でいただく体験型の一皿!皿にはスモーキーな香りをまとわせた和牛粗挽き肉、韓国海苔、荏胡麻の葉、ライスペーパー、そして牛骨髄のエキスを乳化させたというボーンマローオランデーズソース&ハーブの小鉢が並んでいます。

ライスペーパーの上に海苔と荏胡麻の葉を敷き、和牛とソースを乗せくるっと巻いていただきます。。生の牛肉に赤ワインではなくあえて甘みのあるゲヴュルツトラミネールを合わせるのは、肉の鉄分を強調させず、脂の甘みとソースの濃厚さを果実味が包み込むマリアージュを見せるためと解釈しました。
佐賀の純米吟醸とうま味料理

コースの中盤、ワイングラスに注がれたのはまさかの日本酒。佐賀県・天吹酒造が醸す「天吹 純米吟醸 雄町 いちご酵母」です。いちごの花から採取した酵母を使用し、酒米の「雄町」を55%まで磨いた一本。華やかな甘酸っぱい果実香と、雄町特有のふくよかで力強い米のうま味が同居しているとの評価。

「Fresh Norwegian Salmon Crudo(ノルウェー産サーモンのクルード)」。肉厚なノルウェーサーモンに、ペルーのセビーチェで使われるライム果汁ベースのマリネ液・タイガーミルクと、熟成醤油を合わせたスープ仕立てです。表面には爽やかな香りを放つカルダモンリーフオイル。スプーンですくい上げていただきましょう。サーモンのリッチな脂をタイガーミルクの酸味が引き締め、熟成醤油のうま味が日本酒のふくよかさと響き合う。

「Banban Ji 2.0(棒棒鶏2.0)」。バンバンジーをフランス産鶏肉と日本の調味料で刷新したダイナミックな一皿です。しっとり火入れされた鶏肉とキュウリの上に、濃厚な味噌胡麻ソース、そして香味野菜やナッツ、白胡麻、花々が立体的に盛り付けされています。

これをまずは豪快に混ぜ混ぜ。すだちや柚子といった柑橘も隠し味に入っているとのことです。味は結構濃いめでちょくちょくしょっぱさを感じたのですが、これは本来お酒と合わせる前提のものを、私がばくばくハイペースで食べ進めてしまったというだけかも。
トカイワインとオトナのデザート

最後のワインは、ハンガリーのトカイ地方で造られた「Grand Tokaj Sisi Tokaji Furmint Medium Sweet」。オーストリア皇后エリザベートの肖像画が特徴的なこちら、フルミント品種が持つ上品な蜂蜜や熟した果実の甘みと酸味が調和した中甘口の白ワインです。

このワインとともに提供されたのが「Big Mac(ビッグマック)」。ハンバーガー…ではなく、マカダミアナッツをもじったコンテンポラリーなデザートです。深皿にはバニラアイスクリーム(これがまた上質なんです)を中心に、味噌を練り込んだクレームアングレーズ、丸ごとマカダミアナッツ、そしてサワードウブレッドのトースト片が散らされてます。さらにさらに、ベトナム産ロブスタコーヒーの粉末、オリーブオイル、粗挽き黒胡椒、蜂蜜が重ねられた、何とも重層的なスイーツ。
甘ーいアイスに味噌のうま味・塩気が絡み、黒胡椒のピリッとした刺激とコーヒーの苦味が後から追いかけてくる感じ。複雑な塩気とスパイスが、トカイワインの蜂蜜のようなアロマと溶け合います。キッチンバーらしい、酒飲みのための何とも贅沢な締めくくりでありました。
「COUCOU」の店舗情報

タオディエンのキッチンバー「COUCOU」をご紹介しました。

フレンチやイタリアンに東南アジアのハーブや柑橘を差し込みつつ、鰹節や味噌、醤油といった和の要素…一見すると多国籍すぎる複雑な構成に見えますが、油分を控えつつうま味を軸にしているので、全品を食べ終えても重さが無く軽やかな後味。料理の方向性に合わせて選ばれたワインや日本酒のペアリングもまた、それぞれの皿の輪郭を引き立てていました。
お店の席数や落ち着いた照明を考えると、オトナのデートや、食やお酒にこだわりのあるお友達との少人数ディナー向きかと。シェフのKelvin氏が言っていた通り、気取った高級レストランのような堅苦しさはなく、自然体で楽しめるお店です。タオディエン周辺で、新しいアプローチの料理と気の利いたペアリングを探している方は要チェックじゃぞ。なお、訪れる際は事前の予約(インスタのDM等)を強く推奨します。

