日本・東京の築地市場で創業した「築地青空三代目」。その歴史ある江戸前鮨店が、「肉を一切使わず魚だけで焼肉を表現する」という斬新な発想から生み出した業態が、海鮮炙り焼き専門店「焼うお いし川」。鮮魚をロースターで炙り、長期熟成させた赤酢のシャリとともに味わうというユニークな食体験が、日本国内に留まらず、ここベトナム・ホーチミン市でも広がっています。
ホーチミンにおいては、旧1区の日本人街・レタントンエリアに1号店が2024年に、そして外国人駐在員のハブ・タオディエンに2号店が2026年オープン。今回は2号店を訪れてディナーコースを体験してきましたので、レポートしちゃいますよ。
本記事では、「焼うお いし川」のベトナム2号店「Yakiuo Ishikawa Thao Dien」をご紹介します。
「Yakiuo Ishikawa Thao Dien」の場所・店内
「Yakiuo Ishikawa Thao Dien」の2号店が位置するのは、タオディエンエリアの目抜き通り・スアントゥイ通り。通り沿いにはモダンで洗練された飲食店やショップが立ち並び、ガヤガヤしたレタントンエリアとは異なり、家族での食事やゆったりとしたデート・会食などに適した穏やかな環境です。
先述の通り、日本発のお店ではありますが、ベトナムでの展開には「Maguro Studio」「Unagi Station」「Dynamite Lam」など主にホーチミンで数々の日本食店を手掛けるベトナム人シェフ・Lâm氏が携わっておられるようです。
で、何で外観の写真が無いかというと、この日は大雨が降りスアントゥイ通りが川と化しまして、ゆっくり写真を撮っている暇など無かったからであります。こんなガバガバ治水でホーチミン屈指のおしゃれエリアとかマジ!?ということで急いで入店…。

店内は、木目を基調とした和の情緒とモダンデザインが調和。天井は柔らかなカーブを描くアーチ構造になっていて、包まれている感じが心地よい。


座席は、オープンカウンター席とプライベート感を重視したボックス席が用意。すべての席に卓上ロースター排煙フードが完備されており、脂の乗った魚を炙っても煙や匂いはこもりません。

さらになんと、座席の天板下には、座った際に膝が当たっても痛くないよう波状のクッション材が…!なんかふかふかしてるなと思ったら、何ともニクイ心遣い。足元には電源コンセントまで設置されています。
「Yakiuo Ishikawa Thao Dien」のコンセプト
さて、「焼うお いし川」のコンセプトの根底にあるのは、肉を一切使わず魚介のみを用いて焼肉のダイナミズムを再現する…という発想。新鮮な魚の表面をロースターの強火で一気に炙ることで、燻煙を纏わせた香ばしさを引き出しつつ、中心部はしっとりとしたレアの質感を保ちます。スタッフが目の前で一枚ずつ焼き上げてくれるので、客としては素材が持つポテンシャルが最大限に引き出された状態で提供されたものを口に運ぶのみ!貴族かな?
そして、炙り魚に合わせるのが長期熟成された赤酢を使ったシャリ。一般的な白酢に比べて酸味の角が取れており、ふくよかなコクとまろやかな風味が際立つ赤酢のシャリは、魚の濃厚な脂の旨味と合わさり極上の寿司に。

1名あたり1,300,000ドンで提供されるディナーの基本プラン「焼きうおコース」。前菜の茶碗蒸しから始まり、マグロの希少部位をステーキに見立てた一皿、揚げ物、野菜料理、メインとなる焼き魚の盛り合わせ、そして冷麺に見立てた締めの麺に至るまで、焼肉コース的な起伏を魚介料理で準える構成になっています。

飲み物の選択肢も幅広いです。日本酒は手頃なハウスサケから名酒として名高い銘柄まで揃い、ワインのリストも充実。ノンアルコールのモクテルが用意されている点も、酒を飲まない勢としては嬉しい。実は屋外にもカウンター席があり、天気が良い夜は外で炙り魚をちびちびつまみながらお酒を愉しむ…という使い方もできちゃいます。


なお、おまかせ寿司コース(「はじめコース」)・ランチ・アラカルトメニューも用意されています。詳細はタオディエン店の公式サイトからチェック(動画が流れるので音量注意)。
実食
今回は「焼きうおコース」を軸に、お店の看板料理などを含めた構成でいただいたわよ。

まずは温かい「茶碗蒸し」からスタート。滑らかな卵の上に艶やかなべっこう餡が張られています。「ふるん」と繊細な口当たりですが、出汁の旨味がすご…!UMAMIが一気に口内に広がります。これから始まる濃厚な魚料理たちに向け、胃を心地よく整えてくれる前奏曲(プレリュード)ですね(なにいってだこいつ)。


始まって早々クライマックス!?名物料理の「三色丼(1,000,000ドン)」が登場です。小ぶりな丼には、赤酢のシャリを覆い尽くすようにクリーミーなウニと、美しい粒立ちのイクラがたっぷり…。

スタッフの手によって、厚切りの本マグロ大トロがロースターへと運ばれます。網の上で「ジュワッ」と音を立てて脂が弾け、焼き目がついた瞬間、頂点へと豪快にオンザ丼。

大トロを持ち上げると、表面は香ばしく締まりながらも中はとろけるようなレアの質感。口に含むと、上質な脂がじゅわ~と溶け出し、そこにウニのリッチな甘みとイクラの弾けるような塩気。旨味が波のように押し寄せますが、そこは赤酢シャリの酸味がしっかりと受け止めて後味をまとめてくれます。

序盤を飾る焼き物「厚切りカルビのステーキ」。これがまた見事なサシの入った本マグロの腹身で、まるで和牛の霜降り肉と見紛うほどにうちゅくしい…。

これまたスタッフの手で焼き上げられ、茶碗の赤酢シャリの上に乗せられて提供されます。滴るほどの脂を楽しめますが、肉のような重たさは感じません。なお、この後も炙り魚が提供されるため、シャリは完食せずに残しておくことをおすすめしますよ。

続いては「カニクリームコロッケ」。写真では分かりませんが、蟹味噌が敷かれているという嬉しいサプライズも。薄い衣に箸を入れると熱々のベシャメルソースが溢れ、蟹の豊かな風味が鼻腔を抜けます。出汁や醤油の味わいが続く中、洋風なアクセントが加わることでコースの流れに緩急が。

続いては「グリーンサラダ 和風ドレッシング」は葉野菜やトマトの上にカリカリに揚げた極細のじゃがいもが。ドレッシングは林檎を使っているということで結構甘酸っぱいのですが、そのおかげで直前までの油分を洗い流してくれます。


ここで「手巻き」が2種類供。1つ目は照りよく焼き上げられた鰻を挟んだ端正な一品(180,000ドン)で、ふっくらとした身の旨味とタレの香ばしさが口いっぱいに広がります。もう1つは角切りのマグロはじめ数種類の魚にたくあんをあしらったスパイシーソース仕立て(225,000ドン)で、ピリッと刺激的な一品。こういった、現地の好みに寄せたローカライズも行われるということですね。

そしてコースの白眉「焼き魚6種盛り合わせ」が大皿に乗って登場!この日の内容は、いか、ほほ肉、太刀魚、サーモン、はまち、そして中トロの6種類です。スタッフが一品ずつ焼き網に乗せ、それぞれぴったりの焼き加減で小皿へ取り分けてくれます。


飾り包丁が入れられたいかは炙ることで甘みが引き出され、香ばしさと弾力が引き立つ。マグロのほほ肉はまるで牛ハラミのような力強い繊維感と濃厚な旨味。濃いめのタレの風味とおろしのさっぱり感がぴったり調和。


太刀魚は繊細な白身がふっくらと崩れ、サーモンは香ばしい皮目と上質な脂のコクが際立ちます。


締めくくりとして焼かれたのが中トロのすき焼き風。


白ネギを巻いてさっと炙った中トロを、割り下と艶やかな卵黄を入れた器に直接落とし、卵黄を絡めていただいちゃいます。すき焼きの贅沢感をそのままに、後味には魚らしい軽やかな余韻が残り、美味しさに思わず唸らさせられる。残った割り下と卵黄、白ご飯にかけて食べたいな…。

焼き魚を堪能した後は「季節のサラダ」。生野菜ではなく山くらげを主役にした和え物仕立てになっており、細切りの昆布やクコの実とともに、出汁の効いたタレでさっぱり甘酸っぱく仕上げられています。コリコリとした歯ごたえが心地よく、脂の余韻をすっきりリセット。

締めくくりには、焼肉の定番である冷麺の代わりに「かき氷素麺」が登場。出汁に浸された素麺の上には、削り氷とともに色鮮やかなフルーツが贅沢に盛り付けられています。ミニトマトに見える黄色いフルーツは「ゴールデンベリー(=食用ほおずき)」。氷でキュッと締まった素麺の喉越しと、上品な和風出汁…無限に食べられるな。

食後に供されたデザートは黒ごまのアイスクリーム。黒ごまのリッチな香ばしさを纏う上質なアイスにナッツのクリスピーな食感が重なり、甘さは控えめのオトナな味わい。最後に温かいお茶をすすりつつ、コースの余韻を振り返る贅沢な幕切れとなりましたとさ。
「Yakiuo Ishikawa Thao Dien」の店舗情報
「焼うお いし川」のベトナム2号店「Yakiuo Ishikawa Thao Dien」をご紹介しました。

備考として、日本人マネージャーや日本語話者のスタッフさんは常駐されていない模様?とはいえメニューに日本語の記載はあるし、説明も平易な英語で行われるので理解は容易。オープン間も無いお店ですが、オペレーションも今後はどんどん洗練されていくはず。
あと、お手洗いは外(一応通路に屋根はあります)にあり、バックヤードみたいなところを通っていかないといけないのですが、それは構造上仕方ないかなと思いつつも、この価格帯のレストランにしては些か簡素なのでもうちょい居心地を重視すると良くなりそうだな~なんて(日本人はお手洗い重視しますからね)。
何にせよ、肉を使わないながらも味わいの起伏や満足感はまるで高級焼肉!刺身で食べても美味しい魚介をあえて炙り、脂の融点を引き上げつつ赤酢のシャリと合わせる手法。日本食の可能性を広げてくれそうな炙り魚の数々をお試しあれ。

