けたたましいクラクションに、街を包む熱気。
ホーチミン市の喧騒から少しだけ離れて、自分だけの時間を見つけたい。そんな予感に導かれるように、路地裏に足を踏み入れる。バイクの波が遠ざかり、代わりに流れ出すのは、どこか懐かしい、時の進みが少しだけ遅い空気。きっとそこには、密やかな出会いが息を潜めているはず。
…が、今回紹介するカフェはいささか息を潜めすぎな気がしなくもない？
本記事では、ホーチミン市1区の路地裏の奥の奥に新しくオープンしたカフェ「Sáng Sớm」をご紹介します。
「Sáng Sớm」の場所
おはようございます、現在朝8時。突然ですが、ここはどこでしょう。
正解は、ホーチミン市1区・グエンチャイ (Nguyễn Trãi) 通りのヘム（路地裏）。バイクの行き違いすら困難な狭路をひたすら進んでいきます。
ほんのわずかに開けた道へと出ました。屋台、八百屋、カフェ…人びとの生活が息づく小路です。聞こえてくるのは、どこかの家から漏れる話し声や調理の音。これぞベトナム。
そんな雑多な路地の風景の中に、まるでそこだけ時間が止まったかのように静かに佇む建物。こちらが「Sáng Sớm」。グレーを基調とした壁に、鮮やかな赤で縁取られた窓枠とドアが目印です。
店名に「Sáng Sớm」は、ベトナム語で「朝早く」の意。その名の通り、朝の光のように穏やかで、一日の始まりを豊かにしてくれるような空間があるに違いない。
「Sáng Sớm」の内装
赤いドアを開けると、そこに広がっていたのは、インダストリアルな無骨さと、ヴィンテージな温もりが絶妙なバランスで共存する空間。
余談ですが、最近、ブログを読んだ同僚から「インダストリアルって言葉乱用しすぎ」と突っ込みを受けました。
カフェは1階と2階から成ります。1階は、クールなコンクリート打ちっぱなし風の壁と、どこか懐かしい人造大理石のようなテラゾー床が印象的。
カウンターに鎮座する、イタリア・ELEKTRA（エレクトラ）社製エスプレッソマシン。60年代アメ車を彷彿とさせる流線形のフォルムと、鮮やかなスカイブルーのボディ、カッコいい…！
細身の、コカ・コーラの冷蔵庫も、実用性はさておきすごくスタイリッシュ。
階段下のスペースは、さながら小さなレコードショップ。スチールの武骨な棚には、オーナーがセレクトしたであろうレコードがずらりとディスプレイされています。
日本人なら思わず反応してしまうTM NETWORKのアルバムまで。ジャンルも国境も越えたセレクションですね。
傍らにはマニア垂涎ものの、東芝製のレトロなラジカセ「SUGAR」。ポップな色合いにジェリービーンズを模した形のカセット窓と、今見てもオシャレです。この一台が、空間にノスタルジックで遊び心あふれる空気感を加えています。
店内に響くBGMは、少々ボリュームが大きめ。これも、音楽に対する深い愛情の表れ…なのかな？
1階の活気ある雰囲気とは対照的に、赤い鉄骨の手すりが印象的な階段を上った先の2階は、より静かでプライベートな空間。
ここでも基調となるのはコンクリートの壁ですが、天井に巡らされたオレンジ色の間接照明が、空間を柔らかく照らし出しています。まるで夕暮れ時のような光が作り出す陰影は、心を落ち着かせ、物思いに耽りたくなる。
が、空調の電源が入っていなかったため、そそくさと退散…。
「Sáng Sớm」のメニュー
「Sáng Sớm」のメニューはこちら。
アラビカ豆を使った本格的な「エスプレッソ系」、ベトナムの日常に根付いた「ベトナムコーヒー」、そして現代的な「コールドブリュー」と、幅広い好みに対応。近年ベトナムで流行している「Cà phê muối（塩コーヒー）」もラインナップ。コーヒー以外も充実しています。
軽食メニューは、クロワッサンなどの洋風ペイストリーと並んで、ベトナムのローカルフード「Bánh mì xíu mại（肉団子スープとパン）」が用意されるなど、意外なチョイス。
…ちなみに、オープン間もない時間の訪問だったのですが、クロワッサンは売り切れでした。
路地裏の先に見つけた一杯
今回は「Matcha Latte」55,000ドンと、「Banana Cake」40,000ドンを注文。
抹茶ラテは、ミルクの白と抹茶の緑が美しいグラデーションを描いています。一口飲むと…仄かな旨味と強い苦味が広がり、パンチの効いたお味。ちょっと粉っぽさが残る点が気になったかな。
オレンジ色の可愛いお皿に乗ったバナナケーキ。リベイクしてくれたこともあり、表面はさっくり、中はしっとりとした食感。リッチというよりは軽い仕上がりのケーキであり、おそらくバターではなくマーガリンを使っているのかな？これはこれでアリです。
路地裏を探検するワクワク感、緑と光に癒される空間…。良いカフェなのですが、一向に私以外の客が来ない。
大抵、新規オープンしたばかりのカフェって、「みんなどこで情報仕入れてんの！？」と言いたくなるくらい混雑しているのだが、いかんせんこちらの「Sáng Sớm」は、偶々通りかかることがまずありえないロケーションにあるからな…。
それでも10時を回った頃には徐々にお客さんが増え始めました。良い雰囲気のカフェなので、早期に閉店すること無く、頑張っていってほしい…。
皆さまも、心安らぐひとときを過ごしたくなったら「Sáng Sớm」を目指してみてください。ヘムの先で待っている素晴らしい出会いに、心満たされる…はず？
