日本を代表する漫画のひとつ、『ドラえもん』。ベトナムにおいても、ドラえもんという作品には並外れた歴史と特別な立ち位置があります。
ベトナムでドラえもんが初めて出版されたのは1992年のこと。当時はベルヌ条約への加盟前であり、日本語版とタイ語版を参考にキムドン出版社から「Đôrêmon(ドレーモン)」が(無許可で)刊行。ちなみにキムドン出版社は国営。そして参考にしたタイ語版も(この時点では)海賊版。色々とおおらか過ぎる…。
その後、1996年に原作者の藤子・F・不二雄こと藤本氏がベトナム訪問。正式な版権契約を締結する際、それまでの出版分に相当する印税については受け取りを辞退し、ベトナムの恵まれない子どもたちの教育支援に役立ててほしいという氏の願いから「ドラえもん教育基金」が設立されました。
そんなわけで、ベトナムの人々にとってドラえもんは単なる娯楽漫画の枠を超え、幼少期の読書文化を育んだ象徴的存在。だからこそ、こんな施設を拵(こさ)えてしまう異常ドラえもん愛者も出てくるわけでして…。
本記事では、ドラえもんの街並みを、ベトナム南中部の高原都市・ダラットに現出させてしまったという、とんでもカフェ兼宿泊施設「ノビタウン (Thị trấn Nobi)」をご紹介…するつもりでした。
「ノビタウン (Thị trấn Nobi)」の場所

ホーチミン市から空路で1時間弱。高原都市として知られる「ダラット (Đà Lạt)」にやってきました。年間を通じて冷涼な気候に恵まれ、松林や湖、花々に彩られた都市であり、避暑地として親しまれるリゾート地でもあります。

「ノビタウン」が位置するのは、ダラット中心部から東へ約6km。大通りから脇道に入ると舗装の荒れた坂道が続き、両側には白いビニールハウスが広がる農村の風景に。

通り沿いにあるはずが見つからない。Googleマップガン見でうろうろしていると、木立の中にNOBI TOWNの木製看板がひっそり立っていました。バイクはどこに停めれば良いのかな…と思ったのですが、「XE MAY CHAY VÀO TRONG(バイクは中へ)」との掲示が。それ以上に重要な注意書きが横にあることに気付かず。

中に入ると…こ、これは廃墟じゃないか??すると若い男性が飛んできました。英語をお話しになるオーナーらしき男性、どうやら現在改装中とのこと。がーん、だな…。良く見たら入り口に思いっきり「QUÁN TẠM NGHỈ(休業中)」の貼り紙がありました。
Googleマップでは営業中の扱いだったのですが、後でFacebookのファンページを見ると、2026年9月上旬から休業に入るとのアナウンスがしれっと成されていました。ベトナムではGoogleマップよりお店のSNSページを確認すべきだと、4年住んで理解していたはずなのに…!なお、再開時期は未定のまま。
まあでも、店の人と会話したということは不法侵入にはならんだろう…と(勝手に)納得し、外観だけパシャリ。帰り際、日本語で「ありがとー」とも言われたし(関係ない)。
「ノビタウン (Thị trấn Nobi)」の敷地内


ということで敷地内。傾斜地を活かした立体的な路地に、先述の通りドラえもんや日本の街並みをイメージした風景が並びます。このミニチュア感、「ノビタウン」じゃなく「ノビタランド」と名付けても良かったのでは。


ジャイアンの実家「剛田商店」(※わさドラでの名称であり、原作では店名無し、のぶドラでは「剛田雑貨店」)。壁には「Gōda Takeshi」や「思い出横丁」などと書かれた看板が掲げられ、1階窓下には「チキン」や「アヒル」といった肉の部位が手書きされています(手書き風フォントかも)。


引き戸の脇にはポストと並び、「おいしい今すぐ食べに誘う人気のグリル店ようこそ」と書かれた看板。自動翻訳を通したような日本語の響きがむしろ作り手の妙な熱意を感じさせて微笑ましい趣を添えます。側面は「バーベキューショップ」。

隣には神成さんの家をテーマにした「盆栽の木」のあずま屋があります。

和瓦屋根の脇には登場人物に一覧を網羅した看板。サブキャラクターや同級生(はる雄はともかく片倉サブローまで)の名前まで網羅され、お店側の作品愛が伝わってきます…が、本来名無しの筈の静香ちゃんママ(Michiko)・スネ夫パパママ(Sunematsu、Mineko)・ジャイアンの父ちゃん母ちゃん(Tadashi、Momoko)に名前が付いてるのはどうなの。スネ夫ママについてはベトナム語版Wikipediaに「一部資料に記載あり」と名前が載ってしまっているようです。


路地を進むと、見慣れた一軒家。クリーム色の外壁に赤い屋根、2階の出窓まで…「あの」野比家そのものです。ブロック塀までクリーム色なのはよく分からないけども。本来であれば中に入って撮影したり、宿泊なんかもできるようなのですが…メンテナンス中のため外観の撮影しか叶わず。悲しい…悲しい…。

足元のコンクリートには、日本らしさの再現のためか、「止まれ」の白文字がペイント。生活感の演出へのこだわりが感じられます。

野比家の向かいには、見慣れたピンク色のドア…どこでもドア。ベトナム語だと「Cánh cửa thần kỳ(不思議な・神秘的なドア)」です。扉を開けても山あいの緑が広がるだけですが、高原の青空と自然の中に佇む姿には情緒がありますよね??


奥の階段を下りた先には、日本の無人駅を思わせる建物。「東京駅」だそうです。前日の雨に濡れたままのプラットフォームには赤いベンチとポストが置かれ、昭和の風情が湿り気のある空気によく馴染んでいます。

踏切警報機の支柱には、時刻表風の看板。そこには「指揮者はいない」「いつでも行く」「運賃なし」「子供の世界」「子供の頃の列車」「一度だけ行く」「愛の生活」といったフレーズが。直訳調の言葉の並びでありながらもどこか詩的で、子どもの頃のノスタルジーに浸るこの場所のテーマを物語っているみたいで印象に残りました。
「ノビタウン (Thị trấn Nobi)」の施設情報
…ということで「ノビタウン」は2026年10月現在もメンテナンスのため一時休業中となっており、再開時期は未定。訪問を検討される際は、事前に公式SNSなどで最新の状況を確認すること。


