ベトナム中南部に位置する沿岸都市「トゥイホア (Tuy Hòa)」を訪れています。ニャチャンとクイニョンの間に位置する街であり、ホーチミン市からは飛行機でわずか1時間あまりの距離。
トゥイホアの名物のひとつである「Cá ngừ đại dương」…直訳すると「大洋のマグロ」。主に近海で獲れるキハダマグロを指しますが、トゥイホアはベトナム全土でも屈指の水揚げ量を誇る、まさにマグロの聖地なのです。
日本人にとっても馴染み深いマグロを地元ならではの多彩な調理法で味わい尽くすのが、トゥイホア流の食文化。今回は有名店の「Quán Bà Tám」を訪れましたので、本記事でご紹介します。
「Quán Bà Tám」の場所・雰囲気

マグロ料理を求めてやって来たのは、トゥイホアの主要な大通り・レズアン (Lê Duẩn) 通り。広々としていて海にも近い開放的なロケーションです。夕暮れ時に訪れると、心地よい潮風が吹き抜けます。

歩道にずらりと並べられたオープンスタイルのテーブル席。ベトナムのローカル食堂でおなじみの、赤いプラスチック椅子にシンプルなテーブル。こちらが「Quán Bà Tám」です。

空いていた席に着きました。うーん、予想はしていたが、この手の店は1人だと肩身が狭い。
テーブルの下にゴミ箱は備え付けられておらず、食べ殻などが地面に散乱しています。時折店員が箒とちりとりで一掃するカンジですね。潔癖の人にとっては中々ハードルが高いと思います。というか私も正直ツライ。
「Quán Bà Tám」のメニュー


「Quán Bà Tám」のメニューはこちら。
定番の「Cá Ngừ Đại Dương + Mù Tạt(マグロの刺身とワサビ)」から、看板メニューの「Mắt Cá Ngừ(マグロの目玉の漢方蒸し)」、さらには「Lòng Cá Xào/ Hấp(マグロの内臓炒め/蒸し)」や「Trứng Cá Hấp(蒸し魚卵)」まで。目玉から内臓まで、あらゆる部位を余すことなく使い切る、日本ではなかなか出会えないディープなマグロ料理の数々が特徴です。
マグロ以外の料理として、鍋(Lẩu)やタウナギ(Lươn)、イカ(Mực)のメニューもあります。
ドリンクメニューも、サイゴンビールやハイネケンといった定番ビールのほかに、「Rượu Chuối Cô Đơn(薬用バナナ酒)」や「Rượu Táo Mèo(サンザシ酒)」といったベトナムの地酒(Rượu)もラインナップ。メニューに記載はありませんが、水やソフトドリンクも当然あります。
それにしても、値段の記載が無いのが怖い…。価格帯の予想はついているものの、少しヒヤヒヤしながら注文。
実食。刺身はいまいち…?

「Cá Ngừ Đại Dương + Mù Tạt (Nhỏ)」、マグロの刺身とわさびのセット(小サイズ)を注文しました。価格は後ほど分かりますが、70,000ドン。安い!

刺身に添えられているのは、山盛りの葉野菜とピーナッツ。「え、刺身を頼んだはずなのに、まるでサムギョプサル!?」と思わず声が出てしまいます(出ません)。

チューブわさびも一緒に提供されます。よく見ると、日本のS&B「ねりわさび」ではないか。やっぱりマグロにはわさびだよね。

小皿に醤油とわさびを溶きます。なお、醤油はベトナム醤油。

手のひらに大きな葉野菜(カイベーというカラシ菜の一種)と青じそを広げ、そこにわさび醤油を絡ませたマグロの刺身、さらに香ばしいピーナッツを乗せ、くるっと巻いてパクリ。

うーん、シャキシャキとした野菜の食感とほろ苦さ、ピーナッツのカリッとした歯ごたえと香ばしさは良いのだけど…。肝心の刺身は冷凍感が強く(半解凍の状態で提供されます)、厚さも極薄であるため、マグロ特有のねっとりとした旨味は感じられず。身がもっちりと締まっていて、赤身の濃厚な旨味が口いっぱいに広がる…そんな新鮮なマグロを期待していたのだが。

マグロ単品でも食べてみる。先述の通り、醤油はベトナム醤油なので日本のものとは全く味が異なるのですが、わさびが加わるだけで何となくそれっぽい味わいになるから凄い。

食事中にやって来るさまざまな来訪者。こちらはパフォーマー。

とりあえず刺身は完食。何だかんだで10切れはあったので、そこそこ満足。

お会計。注文したのが小サイズだったこともありますが、マグロの刺身としてはかなりお安い価格!また、ペットボトルの水は10,000ドンでした。
再訪。マグロの目玉は食べやすい

刺身だけでトゥイホアのマグロを味わった気になっていて良いのか…?とのインナー会議を経て、翌日の夕方も再訪しました。

まず運ばれてきたのは「Mắt Cá Ngừ」、マグロの目玉の漢方蒸し。どんなグロテスクなものが出てくるのかと少しドキドキしていましたが、水玉模様が可愛らしい趣のある陶器の壺に入って登場。価格は50,000ドン。

スプーンでがばちょ、とすくうと、漢方の香りがふわりと立ち上ります。中には、じっくり煮込まれたマグロの部位がぎっしり。

意外にも可食部が多くてびっくり。目の周りの肉だと思いますが、身も結構入っているので食べ応えあります。別添えの刻みハーブと合わせて食べると、臭みも気にならない。

そして目玉の周りの部分はプルンプルンの食感!口に入れた瞬間にとろけていき、これぞ天然のコラーゲンの塊。眼窩脂肪の部分は、魚の脂ならではの濃厚でクリーミーな味わいです。

味付けは漢方を使った薬膳スープのようなテイストですが、案外ピリ辛。

「Cháo Cá Ngừ (nhỏ)」、マグロ粥の小サイズ…ですが、2〜3人前くらいはありそうで、どこが小サイズやねんと突っ込みたいくらい。お値段驚異の、たったの40,000ドン。

中にはマグロの身がゴロゴロと入っていて、食べ応えバッチリの贅沢な一品。

マグロの出汁が米の一粒一粒に染み渡った滋味深く優しい味わいに、ピリッとした黒胡椒が効いています。濃厚な目玉料理を味わった後に、ホッとするお粥…良い組み合わせです。

お会計。ここで初めて各メニューの価格を知るわけですが…やはり安い。これが地方の物価なのか…。

王道の刺身から、ディープな目玉料理まで、マグロという食材の可能性を教えてくれるトゥイホアの食文化。衛生面や言語面でのハードルはありますが、機会があれば「Quán Bà Tám」でマグロ料理とローカル体験を味わってみてくだされ。