重厚なインダストリアルスタイルの内装に、2階建ての天井にまで届く巨大な本棚…。そのあまりにも個性的な空間デザインで大人気のカフェ「Nhâm Cafe(ニャム・カフェ)」をご存知でしょうか。
「Nhâm Cafe」はホーチミン市内・10区とビンタイン区に2店舗を構え、いずれも共通のデザインコンセプトを持ちます。営業時間はまさかの24時間であり、1日を通して客足が途絶えることは無い模様。
さて、話は変わりますが、来たる4月30日はベトナムの「南部解放記念日」です。ベトナム戦争が終結し、ベトナムが南北統一されたという歴史的な出来事を象徴する、非常に重要な日。そして、2025年は南北統一50周年。ベトナムの人々のとって大きな意味を持つ記念の年であることは想像に難くありません。
そして、現在トレンドとなっているのが、店内を赤と黄色で飾り付けるとともに、ベトナム国旗をイメージしたドリンクやフードを提供する「愛国カフェ」。国旗、党旗、南ベトナム民族解放戦線の旗、スローガンやプロパガンダのポスターなどをあしらった空間が、人々の気持ちを戦勝記念日に向けて高めているようです。
話は戻り、「Nhâm Cafe」のビンタイン区店でも、記念日に向けた装飾がなされているとの情報を得ました。ただでさえ人気のカフェがトレンドに乗っかったら客足はどうなってしまうのか。見に行ってみましたよ。
「Nhâm Cafe」ビンタイン区店の場所・外観

おはようございます。ビンタイン区・ディエンビエンフー (Điện Biên Phủ) 通りにやって来ました。ちょうど、ホンバン国際大学 (Đại học Quốc tế Hồng Bàng) のある辺りですね。

ちなみに現在、日曜日の朝7時。本日5時半起きという点から私の気合が伝われば幸いです。

「Nhâm Cafe」は、大学から向かって右隣のヘム(路地裏)の中にあります。看板に沿って進んでいきましょう。

こちらの駐輪場を右に曲がったところに、まああるがね(唐突な名古屋弁)。「24/7」ということは…ホントに24時間営業なのか。先日も「ホーチミン市内の24時間営業カフェ特集」をやりましたが、ランニングコストだって馬鹿にならないだろうに、それを上回るほどに客入りが良いのだろうか。

こちらが「Nhâm Cafe」の外観。一見木製にも見える大きな門、ですがよーく見ると茶色の塗料でペイントされており、錆びて風化したスチールのような質感となっていることがポイントです。一方で、カフェの内部から漏れ出る光は温かみを感じさせますね。

4月30日の記念日を目前に、写真スポットが設けられていました。無数のベトナム国旗と共産党旗が飾られており、訪れる人々の愛国心を高めています。

この地図も最近は特によく目にしますね。ベトナム本土に「ホアンサ諸島(西沙諸島/パラセル諸島)」と「チュオンサ諸島(南沙諸島/スプラトリー諸島)」を加えた地図です。これが意味するところは…まあ、あえて説明するまでも無いですかね。

政府に対する不満こそあれど、ベトナムの人々は世代を問わずストレートに愛国心を表現する傾向が大きいと思います。やはり、今日のベトナムは自分たちで勝ち取った結果であるという自負があるのだろうか。日本のカフェで日の丸がはためいている光景は想像つかないものな…。どちらが良いとかそういう話ではなく、そういった違いが興味深いですよね。

カフェの門に取り付けられているの…これ、「ライオン錠」の亜種じゃない!?バブル期の建物で見るやつだ。

こちらにも国旗・党旗があしらわれています。打ちっぱなしのような無骨な外壁とのコントラストが目を引く。左のドアから店内に入りますよ。
「Nhâm Cafe」のメニュー

店内に入るとすぐに、小ぢんまりとした可愛らしいカウンターが。こちらで注文します。しかし、結構大箱のカフェであるにも関わらず、この小さいカウンターでピークタイム時の注文をさばき切れるのだろうか…?

ドリンクメニューはこちら。金額のレンジは45,000〜85,000ドンと、ローカルのカフェにしては少しお高めに見えるかもしれませんが、昨今のホーチミン市であれば標準的な価格帯。最近ブームの抹茶も扱います。

カウンター側に目を向けると…おお、ペイストリーがずらりと並んでいますよ。

早朝だから品数が少ないかも、と思いましたが、杞憂でしたね。ただこちらのお店、先述の通り24時間営業のため、これらのパンはいつ焼き上げたものなのか?という疑問があったり。

人が多く出入りする場所にも関わらず、カバー等で覆わず外気に晒して陳列しているのは少し愛が足りない気もするが…まあ、このお店はベーカリーという訳でも無いし、深くは気にしないでおきましょう。


ペイストリー類は自分で皿に取ってレジに持っていけばOK。会計後、店員さんがリベイクしてくれます。

なお、時間によって提供されるペイストリーは異なる模様。帰り際にはバスクチーズケーキが陳列されていましたよ。
「Nhâm Cafe」ビンタイン区店の内装
さて、それでは店内の様子を見ていきましょう。

「Nhâm Cafe」の最大の特徴、それは床から天井まで届く巨大な「本の壁」。隙間なく埋め尽くされた本は圧巻という他ありません。図書館や本屋とは異なり、あくまでデザイン要素として壁全体が本で構成されている点が非常にユニークです。

この「本の壁」は「Nhâm Cafe」の象徴となっており、多くの人がこの前で撮影を楽しんでいます。古書がずらりと並ぶ様子は壮観であり、まるで異世界にでも迷い込んだような感覚。

「ここで写真を撮ってね」と言わんばかりの、無骨でレトロな作業机(と、奥にある革張りの椅子)。
よくもまあ、これほどの装飾をこさえることが出来たものだ。なお、ビンタイン区店だけではなく10区店でも同様のデザインが見られます。

「本の壁」以外にも、インダストリアルな雰囲気を強調した内装デザインが特徴。天井が高く、広々とした空間となっており、快適性も考慮されているようです。カウンター席、テーブル席、ソファ席など、様々なタイプの席が配置されており、利用者のニーズに合わせていることが分かりますね。
ただし、壁際のソファ席について、誰かが動くと振動が盛大に伝わるような構造になっています。混雑時にソファ席を選ぶのは避けるほうが良いかも。

床はコンクリートの打ちっ放し、壁も塗りっぱなしのようなラフな仕上げになっており、素朴で無骨な雰囲気を作り出しています。一方、空間の各所に観葉植物が配置されており、硬質な素材感の中に緑の潤いと生命感を加えています。

工場や倉庫で使われるようなデザインのペンダントライトやスポットライトが多数使用されており、インダストリアルな雰囲気を高めています。明るさも場所によって調整されているようですね。

店内の一角では、これまで見てきたインダストリアルな空間に、古い薬局のキャビネットのようなものや、使い込まれた様子の家具が組み合わされており、独特の雰囲気を作り出しています。ヴィンテージ家具特有の、使い込まれた塗装や傷は空間にリアルな質感とストーリーを与えています。

店内には2階席もあります。階段を囲むようにして、アメリカ製などの古いミシンがディスプレイされておりこれまた圧巻である。

2階にはクワイエットゾーンがあります。大箱のカフェゆえ、ピークタイムの混雑時は騒がしくなることが予想されるため、用途によってはこちらのエリアを利用すると良いかも。

クワイエットゾーンの様子。木でできた格子が障子枠のように見え、どことなく和風っぽい?

その他、1階と同様のコンセプトの客席を備えます。

錆びた金属、使い込まれた木、古い電化製品、そして大量の本など、様々な「物」が持つ個性と歴史が空間を形づくる一角。これまでの要素がミックスされた、情報量の多いアングルとなりました。
抹茶ラテとペイストリーを実食
店内をじっくり紹介してきましたが、ドリンクとペイストリーについても実食していきましょう。

なお、朝7時台でありながら店内はそれなりに客が入っており、ドリンクが提供されるまでには体感で10分弱程を要しました。この様子だと、混雑時はドリンクを受け取るまでかなり時間がかかりそうだな…。

私が注文したのは「Matcha Strawberry」60,000ドンと、「Cocoa Choco」49,000ドン。ベトナム国旗があしらわれたドリンクを注文するつもりだったのですが、すっかり忘れてしまっていた。

併せてボトルに入ったお水も持ってきてくれました。おひとりさまに対しても素晴らしい心配り!ありがたや〜。

「Matcha Strawberry」は、まるでデザートのようにくっきりと分かれた3層構造が美しい抹茶ストロベリーラテ。角切りのフレッシュストロベリーもトッピングされています。あら、気が利くじゃない?(誰だよ)
抹茶は加糖されておらず、強い苦味と旨味が口に広がる個性的な味。一方、ミルクは練乳のような甘さがあります。そこにストロベリーソースの酸味が加わり、甘み+酸味+苦味による味の相互作用が起こり、バランスの良い味に。

「Cocoa Choco」。可愛らしくデコレーションされていますが…リベイクしてくれたにも関わらず、しんなりとした食感。

こりゃあ、結構長い時間陳列されていたのではなかろうか。とは言え、5万ドンしないペイストリーなので、そこまで不満はありません。中のチョコクリーム、なめらかで美味しかったです。

そして時間は9時。…はい、満席です。

残念だけど、これほどの混雑じゃ映え写真なんて禄に撮れやしないねえ。悔しかったら早起きして朝7時に来てみな、ぺぺぺぺぺぺぺっ!(一体何と闘っているのか)
何にせよ、人気カフェ+トレンドの組み合わせの威力は凄まじいことが分かりました。そろそろお暇しようかと思います。
まとめ&「Nhâm Cafe」ビンタイン区店の店舗情報

ホーチミン市・ビンタイン区のカフェ「Nhâm Cafe」をご紹介しました。
インダストリアルな構造体と素材感を活かしながら、大量の本による圧倒的な壁、そしてヴィンテージやアンティーク調の個性的な家具を組み合わせることで、ホーチミン市でも他に類を見ないユニークで魅力的な空間を作り上げているカフェでした。
また、4月30日の記念日に向けた装飾も良かったですね。ベトナムの人々の、気持ちの高まりが伝わってくるようでした。
何にせよ、当面は終日混雑が予想されるカフェであるため、もし興味を持たれた方は頑張って早起きして訪れてみてください。