凄まじいエネルギーで日々変化し続けるホーチミン市中心部。バイクのクラクション、建設現場のけたたましい重機音、行き交う人々の熱気で賑わうこの街ですが、ふと「静寂」が恋しくなる瞬間が。
そんな時に逃げ込みたい秘密基地のようなカフェをご紹介。高島屋の向かいにありながら、一歩足を踏み入れると、そこには外の世界とは全く異なる時間が流れているのだった。
本記事では、ホーチミン市サイゴン街区(旧1区)のカフェ「BẢN Cà Phê」をご紹介します。
「BẢN Cà Phê」の場所・アクセス

ホーチミン市の中心を貫く目抜き通り・レロイ (Lê Lợi) 通り。すぐ目の前には、煌びやかなデパート「サイゴンセンター(高島屋)」がそびえ立ち、通り沿いでは年末のイベントに向けた工事の囲いが街の変貌を告げています。ここはまさに、現代ホーチミンの「最前線」。

目指す「BẢN Cà Phê」は、そんな大通りの喧騒から身を隠すようにひっそりと佇んでいます。薄暗く、少し怪しげな路地(ヘム)の入り口。頭上に掲げられた小さな「BẢN」というロゴと矢印だけが、ここが目的地であることを示してくれています。

こちらは以前訪れた「N.E COFFEE」が位置するのと同じヘム。今回は古いアパートの入り口から入ります。

何層にも塗り重ねられ、剥がれ落ちた塗装。手すりの冷たい感触、すり減ったステップ。一段一段踏みしめるたびに、現代から古き良きサイゴンの時代へとタイムスリップ。カフェへの気持ちを高めてくれる儀礼的体験である。

2階(日本式でいう3階)まで登りきると、そこには優しい光が差し込む廊下が待っていたのだった。青々とした観葉植物や壁に掛けられた看板が訪れる人を静かに出迎えてくれる。張り詰めていた気持ちが、ふっと緩む瞬間です。
「BẢN Cà Phê」の内装・雰囲気

ドアを開けると…おおお、天井が高い!?廊下からは想像がつかないほどに開放的な空間。

ハイライトは何と言っても、吹き抜けの高い天井まで届く巨大な本棚。空間を圧倒的な存在感で支配しています。無数の本がぎっしりと詰め込まれたその光景は、以前訪れた「Nhâm Cafe」を想起させます。

天井から吊るされた琥珀色のペンダントライトや、和紙のような丸い提灯照明が、本棚を温かく照らし出し、幻想的な陰影を作り出していますね。

ふと周りを見渡すと、ここが単なるお洒落カフェではなく、やけに日本のエッセンスが多いことに気が付く。本棚に並んでいるのは『ワンパンマン』や『BLEACH』、『FAIRY TAIL』といった単行本。


黒電話、ブラウン管の古いテレビ、カセットテープ、そしてオールドデジカメ。ごちゃごちゃしているようでいて、妙に調和しているこの空間は、何とも言えない郷愁を感じさせます。

ふと天井を見上げると、たくさんの折り鶴と共に揺れる風鈴、そして「おかえり」の文字。

そう言えば、入り口の物販コーナーに置かれていたバッグにも「お帰りなさい」の文字が…。ベトナムのカフェで日本語で「おかえり」と迎えられるとは。その不意打ちの優しさに、日々の生活で知らず知らずのうちに張っていた気が、すっと解けていくのを感じた…ような、感じなかったような。

階段を上がると、そこには屋根裏部屋のようなロフト席が!

勾配天井が作り出すおこもり感は抜群。靴を脱いで上がる小上がり席もあり、壁際のディスプレイ相まって、まるで誰かの家に招かれたかのように、ちゃぶ台を囲んでくつろぐことができちゃう。

そして、壁一面を覆うはまさかの絵馬。

木の札にはたくさんのメッセージ。ベトナム語、英語、そして日本語。「試験に合格しますように」「家族が幸せでありますように」…国や言語は違えども、人が願うことは同じなのである。

ロフトの手すりから下の階を見下ろすと、高い天井と本棚の全貌、クリスマスツリーの灯りが織りなすこのカフェ一番の絶景。

奥には、レロイ通りを見下ろせすテラス席が。歩みを止めないホーチミン市の街並みを、時が止まったような古いアパートの一角から眺める…このコントラストに情緒が壊れちゃう!

「気楽」「閑寂」と書かれた提灯が揺れるバルコニー。
「BẢN Cà Phê」のメニュー




「BẢN Cà Phê」のメニューはこちら。遊び心に満ちていますね。お茶系のメニューには日本の、ヨーグルトやジュースにはベトナムの観光地の名前が付けられています。さらにスムージーは「NARUTO-KUN」「SAKURA-CHAN」といったネーミング。

価格は、この立地にしては良心的。レジ横のショーケースにはクロワッサンやバナナケーキも並んでおり、小腹が空いた時にも良さげ。

「OKAYAMA VIBE」65,000ドン。メニューの説明を読むと「パイナップル&バブルガム」とのこと。岡山といえば桃やマスカットでは…。
美しい琥珀色のアイスティーに口をつけると…甘い。説明の通り、アメリカ~ンな感じの人工的なバブルガム味です。
しかし、ベースはすっきりしたパイナップルティー。南国フルーツの爽やかな酸味と紅茶の風味も感じられ、後味は爽快。駄菓子のような香りと、本格的なフルーツティー味というギャップが楽しいリフレッシュドリンクなのだった。
「BẢN Cà Phê」の店舗情報

路地裏への冒険、螺旋階段を登る高揚感、壁一面の本棚に囲まれる安心感、そして不意打ちの「おかえり」。
観光の合間に休憩したい旅行者、日常の喧騒から離れたい在住者、どちらにもおすすめしたい一軒です。


